ヨガセラピーの大きなミッションは、リパターニング/Repatterning です。パターン/patternは、あえて日本語に直せば「思考や行動の型・様式」ということで、Reがつくと、すでに身についている思考や行動のパターン、つまり多くは無意識になってしまっている思考や行動の癖を新しいものに変えるということです。思考や行動様式のシフトです。

たとえば、今までAという事柄が起こると無意識にBという反応をしてCという行動を起こしていた回路を変えて、Aという事柄に対して、Bという反応をしている自分に気づいて、あえてGという判断をして、新しいXという行動を起こす。やがて、BGXが新しい行動・思考様式(パターン)として身につきリパターンが成ったということです。

これは体の動きでも同じで、〔スマホを手に取る→うつむいて見る〕というパターンを、これでは首に負担がかかり肩こりがひどくなるということに気づき〔スマホを手に取る→スマホを高い位置に持って見る〕という新パターンに変える。その結果、肩こりが解消する。これは動作のリパターニングです。ゴルフで飛距離を伸ばすためだけでなく、たとえば股関節の痛みが出たので、スイングをプロにチェックしてもらって、スイングを変えるなども同じことです。

無意識にやっていることに気づく思考パターンが変わることで、より生きやすくなったり、体の動かし方が変わることで、痛みが緩和されたり、より効率的に動けるようになったりすることを目指します。

はじめの一歩:気づき

考え方や行動の癖は、無意識にやっていることが多いので、まずは、そこに気づくことが大きな第一歩です。

たとえば、私は小学生に上がるまで自分のことを「ゆみこチャンはね・・・」とチャンづけで呼んでいました。母が、小学生になるのを機に、お小遣いをあげるけど、自分のことは「わたし」と呼ぶようにしよう!できなかったら10円罰金という制度をつくりました。そこで人生で初めて「ゆみこチャン」と自分自身を呼んでいることに気づき、その後、自分は「わたし」と呼ぶ新習慣を身に着けるまでには、透明なビンにいっぱいの10円玉が貯まっていました。その時、こども心に、習慣を変えるって難しい!と10円の罰金をとられる度に実に苦々しく思ったので、記憶にしっかりと刻まれています。

生活習慣という癖

具体的に、ヨガセラピーにおける身体的なリパターニングを紹介します。たとえば腰痛の人に対して生活習慣の聞き取りや観察をします。すると常に片側だけで足を組んで座っている癖があることに気づきます。その場合、足を組むのをやめるという行動パターンにシフトを促します。かばんは、いつも右手に持っている、電車のつり革は、いつも左でつかんでいる、いつも右足から踏み出しているなどなど、人間はまったく気づかずにやってる色々な癖があるものです。

または膝の内側が痛いというクライアントがいたとします。膝の内側が痛い人は大抵蟹股の人が多いのですが、念のため立ち姿勢と歩き方を観察します。すると、やはり蟹股歩きであることがわかります。そこで、蟹股を治すエクササイズを導入して、動作のリパターニンを補助します。タイガーウッズでさえも、一時スランプに陥り腰痛にも苦しみ、フォームの改善、つまりリパターニングをしたそうです。

思考の癖

癖は、身体的なものばかりではありません。思考の癖というものもあります。世の中には、何を見ても何を聞いてもネガティブな方向に取る人っていますよね。

私の父もそうでした。父に何を言っても、まずは「そんなこたーないよ。」と全否定から始まりました。完全に癖です。これを治すには、やはり自分の思考の癖に気づくことです。

ヨガセラピーができること

人に指摘してもらうのが一番ではありますが、なかなか素直には聞けないものです。自から気づき、自ら変えたい、変えようと思うことが大切です。ヨガセラピストは、そのお手伝いをします。

ヨガセラピストは心理療法士ではありませんが、たとえばアクティブ・リスリング(相手の話に割り込まず、ジャッジせずに積極的に耳を傾ける)などを通して、自ら思考の癖や問題点を気づいてもらいます。

心身一如

なぜ心にまで目を向けるかと言うと、心と体は切り離すことはできないからです。ヨガでは、人の体は5層(鞘・さや)でできていると考えます。外側は肉体で、その内側に私たち日本人が「気」と呼ぶエネルギーがあります。気を感じるのに特に不思議パワーは必要ありません。「彼/彼女からは生気が感じられない。元気がない」と私たちが日常、普通に観察していることです。(余談ですが、日本語には気を含む言葉実に多いです。気が利かない、空気読めない、、、きっと、昔、日本人はもっと気を感じながら生きていたのでしょう。)そして3層が心・感情、4層が理智・知性、5層が歓喜となります。ロシアの民芸人形のマトリョーシカのようなイメージです。

たとえば、状況、仕事、人などに対して怒りという感情が第三層から湧き起こった場合、怒気(第四層)が身体(第5層)から、にじみ出ます。顔は紅潮し目は見開き鼻息は荒くなるかもしれません。たとえ顔はポーカーフェースで通せたとしても、体のどこかでは炎症が起きたり、胃酸過多になったり、血圧が上昇したり、時には予期せぬ蕁麻疹という形で体の外に吹き出て来るかもしれません。

こんなことが恒常的に続けば、ストレスが蓄積され、胃潰瘍になったり、心臓病になるかもしれません。ストレスからくる病気は、鬱病だけでなく実に実に多いのです。

近年では、腰痛さえも身体的な要因よりも心的要因によりストレスが大きいというエビデンス(医学的証明)が多く出ています。

では、第三層の怒りという感情を第4→第五という怒りの反応&行動を我慢したり抑え込むのではなく、手放すにはどうでしたらいいか。

怒りやイライラで切れるのは、よくない。「頭ではわかっているけど、どうしようもできない」という言い訳をよく耳にしますが、実は、どうしようもできるのです。なぜなら、感情には考え方の「ものさし」となっている第四層目の理智による判断基準が司令塔となって、怒りの感情にGoサインやStopサインを出しているからです。

怒っている人は、実は〔怒り→怒鳴る〕はOKだと判断していてONのスイッチを自ら押しているというわけです。部下には怒鳴りまくっている人が、上司には同じことをされても、まったく違う反応をするなど、状況によって使い分けたりすることができるのも、その一例です。ですので、怒りのスイッチを押してもOKと思っている判断基準に気づき、それを変えることで行動を変えることもできるのです。

以下はホロコースト生存者であり心理学者のビクトル・フランクルの言葉です。(収容所の中で書いた「夜と霧」など生きることの意味を問いかける著書多数)

“Between stimulus and response, there’s a space, in that space lies our power to choose our response, in our response lies our growth and our freedom.” by Viktor Frankl

「刺激と反応の間には空間があります。その空間には私たちが自分の反応を選ぶための力が横たわっています。私たちの反応には私たちの成長と自由が横たわっています。」

ヨガの力

以上のように、心と体は切っても切れない関係なわけですが、ヨガが心身両面のセラピーになる大きな要因はヨガは、体と呼吸を通して心を内観できるようにする力を持っているからです。

心と体を反応させる触媒(キャタリスト)の役割が呼吸です。自律神経は、代謝、体温などの機能や内臓の働きやをコントロールするために、意思とは関係なく自動的に働いていますが、呼吸だけは意思とは関係なくすることもできれば、意思によってコントロールすることもできます。

ですので、この呼吸によって「闘争すべきか逃走すべきか」の交感神経がマックスONになっている時でも、「まったり食事でもして消化するまで、まったりリラックス」の副交感神経を働かせることができます。緊張していたり、怒っている人に「深呼吸」を薦める理由がここにあります。(吐く息を長くすると、よりリラックス効果があると言われています。)

自らの呼吸に耳を傾け、ゆっくりと体の動きに心を置いてマインドフルネスに行うことで、体をリラックスさせる副交感神経心のスイッチが入り、心と体がつながります。心身一如(しんしんいちじょ)、「心と身体は一体である」ということです。仏教用語であり漢方医学が重視する概念です。

もちろん他の運動などでも同じ効果は得られるでしょうが、ヨガのいいところは、コマーシャルで女優さんが取るようなアクロバットのようなポーズではなく、誰にでもできるポーズで、生きている限り誰でもしている呼吸を通して、心身を整えていくことができることです。ヨガセラピーではヨガの「きめポーズ」が大事なのではなく、ポーズへと動いていく動作、ポーズをほどいていく動作、すべて今ここを大切にします。

調身・調息・調心

また禅に、調身・調息・調心という美しい言葉があります。「身がととのい、息がととのえば、心おのずからととのう。」という意味だそうです。ヨガセラピーも、正にそういうことです。

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筆者

ホーバン村松由美子

米・ニュージャージー州在住。1986年に渡米。全米ヨガアライアンスRYT500 & Prenatal (マタニティー) & シニアヨガインストラクター。米にてInternational Association of Yoga Therapists 取得中。「セラピーとしてのヨガ」がライフワーク