アメリカでは、その昔、日本の鈴木大拙老師(1870-1966)が禅を伝えるためにカリフォルニアにやってきて、明治~昭和と20年の滞在を経て、禅を広めました。その後、ダライラマが中国政府の弾圧を受けて亡命し、時の人となりました。特に、冷戦時代、共産主義への嫌悪感の高まりとともに、ダライラマの活動が注目を浴びます。アメリカではリチャード・ギアを始めとするセレブ達がダライラマを信奉することも大きく影響して、ダライラマの名前と教えはアメリカに一気に広がっていきました。
そして最近ではSecular Buddhismが、特に広まっています。Secularとは世俗的とか現世的という意味がありますが、ここで言うSecular Buddhismは簡単に言えば、宗教性を取り除いた(奇跡とか迷信のような話を取り除いた)仏教思想や仏教哲学を学び実践する人たちのことです。
マインドフルネスとは
中でも、マサチューセッツ工科大学医学大学院学長のジョン・カバット氏が提唱した「ストレス低減療法」としてのマインドフルネスは、仏教の瞑想から宗教性を一切取り除き、誰にでもできる瞑想方法としてメディアでも次々と報じられ人々の関心を集めています。
講座受講5週目レポート
ジョンカバット氏の8週のマインドフルネスヨガの5週目を終えてのレポートです。(初日レポートはこちら)講座は同じことをさまざまな角度から繰り返すことにより思考の習慣づけをすることを大切にするため、 前回のレポートと多少重なる点がありますが、ご容赦ください。
5感からの情報をキャッチする練習
受講者は20人ほど。毎回、講師2名の指導でマインドフルな食事(たとえば初日の一番最初は、レーズンをひと粒、時間をかけて味わい感じ食べることから始まります。)、ボディースキャン(仰向けに寝て左のつま先から太もも、右のつま先から太もも、骨盤から胸、首、顔と呼吸とともに意識をゆっくりと移して行く練習。)、瞑想、マインドフルネス歩行、マインドフルネスヨガを行います。(マインドフルヨガは、一般のヨガよりも、スピードが恐らく4倍以上ゆっくりです。手を体の横から頭上に上げるだけでも1分くらいかけていることもあります。 動きながら、自分の感覚と呼吸に100%集中します。今ここに気づきます。 )
平日のいつものクラスは2時間ですが、5週目の日曜日はリトリート(静修)と言って、4時間の間、一言も口をきかずに、ただひたすらマインドフルネスな状態で過ごしました。(持参したランチを食べる時間が30分設定されていて、その時も、たとえベンチの隣にクラスメートが腰掛けていても、決して目を合わさず、黙々とマインドフルに食事をします。)
リトリートの沈黙ランチの後の参加者の感想は、「ほんの少し食べただけで、お腹がいっぱいになってしまった。」「ひとつひとつの素材の味がよくわかった。」などでした。
クラスでは毎回、二人一組になって、学びあったことを意見交換するのですが、私が組んだインド系の男性は、半年前に心臓発作で生存率1%と言われたが生き残り、今も治療を続けていて医者にマインドフルネスのクラスを薦められたのだそうです。彼は、数日前に経過観察のための検査をしたのだそうですが、待ち時間や検査中に、クラスで習ったボディースキャンを実践してみたところ、検査後、医者に「あなたは今まで私が診た患者さんの中で一番落ち着いていました。」と褒められたそうです。
ひたすら脳の筋トレ
コース受講中は、毎日自宅でも30分~45分の瞑想とボディースキャンをしなければなりません。(もちろん受講後も続けることが理想的です。)受講前も瞑想とヨガは毎日していますがが、それでもこの宿題は、ちょっと辛いです。ボディースキャンは、横になった姿勢でするので、私の場合は、どうしても恐ろしい睡魔に襲われてしまいます。
思考の暴走
なぜ毎日やることが大事なのかと言うと、筋トレでコツコツと筋肉を鍛えるのと同じで、マインドフルネスであるための心(脳)の筋肉を鍛えるためです。私達の心は常に雑念が浮かんでは消え浮かんでは消えを繰り返し、一日に5万から7万の雑念が心をよぎるそうです。1分に35から48です。私達の心は車で言えば自分で運転していない自動運転モードどころか、ほぼ暴走状態です。このような心の暴走をモンキー・マインドととも言います。つまり、思考がサルのように樹から樹へのピョンピョント跳ね回り、捕らえられないということです。
この暴走するサル的心に気づき、今ここに意識を戻すテクニックがマインドフルネス・トレーニングです。でも心を空っぽにしましょうと言うわけではありません。「我、思う故に我あり。」と、デカルトが言うように、思考するのが人間の特質でもあるので、思考を否定するのではなく、思考と感情の暴走をコントロールしようということです。
たとえば、先日私の友人が乳がん検査を受けたところ、再検査通知が来たそうです。その瞬間から彼女の心は暴走を始め、もし癌だったらどうしよう、余命は、あとどの位だろう?「乳がん」というキーワードで何時間も検索し、何をしていても手につかず、時より涙さえも出てきて、とにかく、次から次へと悪い方悪い方へ考えてしまったそうです。結局、二次検査では全く問題がなかったということで、その途端に、「どうして、あんなに取り付かれたように心配したんだろう?」と思ったそうです。
気づき手放す
マインドフルネスのトレーニングでは、このような思考や感情の暴走に、まずは「気づき」、呼吸に集中することで、心に浮かんでくる思考を、空を流れる雲のように、または川を流れる木の葉のように流れ去らせてしまいます。次々と考えが浮かぶ度に、それに気づき、そして手放します。その訓練をし続けることにより、脳が鍛えられて少しずつ気づき術と手放し術が早く上手になって行きます。思考と感情のコントロール能力が高まるのです。
マインドフルネス3:最終章 Human Being vs. Human Doing
村松ホーバン由美子:日本ヨガメディカル協会公認講師&WEB編集責任者
E-RYT500、C-IAYT(国際ヨガセラピスト協会認定セラピスト)、介護予防指導士、米国シニアヨガ指導士、ムーブメントセラピー指導者、ORIGINAL STRENGHTH認定プロフェッショナル、日英通訳翻訳。埼玉県在住。
【担当講座】「解剖学② ヨガセラピー✖筋膜」「ヨガ✖ポリヴェーガル理論✖自律神経」「様々なポーズの軽減法」