年を重ねるにつれ、腰痛、膝痛、五十肩 など、どこかしら体に不調を感じる人が増えてきます。これは加齢による筋力の低下や関節の変性、長年の生活習慣が影響しているためです。しかし、こうした痛みや不調を 「年齢のせいだから仕方がない」 と早々に諦めていたら、体はますます老化の一途をたどることでしょう。

健康寿命は何歳になっても延ばせる

スポーツ医学アクティブエイジング の分野で国際的に認知されているヴォンダ・ライト医師(Vonda Wright, MD)の長年に研究によると、適切な運動習慣を取り入れることで、いくつになっても筋肉量とパフォーマンスを維持でき健康寿命を延ばすことが可能だということです。ヴォンダ医師は、「人間の体は動くようにデザインされており」「動くことは薬」だと述べています。(その証拠として私達の下半身は非常に頑丈に設計されている。もし動くために進化していなかったら、私達の体はマッシュルームのように大きな上半身とか細い下半身だったのでは、と述べています。)

最上部は40歳、右下は70歳のトライアスロンを行っている人の太腿のMRI画像で、ほとんど違いがない。左下は座っていることの多い不活発な70歳男性の霜降り肉状態の太腿のMRI画像。

ヴォンダ・ライト医師は、柔軟性維持(ヨガなどのストレッチ)、有酸素運動、筋力トレーニングを組み合わせた包括的なフィットネスアプローチを推奨しています。

どんなヨガがお薦め?

ヨガが健康に良いことは既に多くの研究によって証明されています。医療や健康に関する信頼性の高い研究論文やデータを検索できる 世界的に有名な医学データベース であるPubMed と Cochrane Library では、300以上ヨガの健康効果を示唆する研究結果が掲載されています。

しかしながら、今まであまり運動をしてこなかった40代以上~高齢者の人がヨガを始める場合には、ヨガの種類の選択が非常に重要です。現在、多くのヨガ教室で提供されている「ホットヨガ」や「アクロバティックなヨガ」は、体に負担が大きすぎることも少なくありません。

ホットヨガが中高年の健康にはよくない理由

特にホットヨガは、大量の発汗を促し、デトックス効果があるとされていますが、実際にはホットヨガのデトックス効果に関する科学的根拠は限定的であり、発汗による毒素排出の効果は微々たるものであると指摘されています。若く健康的な人であれば、たくさんの汗をかきながら思い切り体を動かすことでの健康効果はあるでしょうが、40代以上の人にとっては、ホットヨガが身体に与える影響を慎重に考える必要があります。

アメリカで医学情報の信頼性の高い発信源 としても有名なMayo Clinicは、「ヨガは、身体のポーズ、制御された呼吸、瞑想またはリラクゼーションを組み合わせた心身の実践です。ヨガは、ストレスを軽減し、血圧を下げ、心拍数を低下させる効果があるとされていますが、ホットヨガは誰にでも適しているわけではありません。運動の強度や高温の環境により、熱中症などの健康リスクを引き起こす可能性 があります。特に、健康上の不安がある方や妊娠中の方は、ホットヨガを始める前に必ず医師に相談してください。」としています。

ホットヨガの危険性】

  • 大量の汗をかくため水分補給が間に合わないと脱水症状を引き起こしやすくなる。
  • 関節や筋肉への負担が増大高温の環境では筋肉や関節が一時的に柔らかくなり、可動域が広がり、無理なストレッチをしてしまうことで関節や靭帯に過度な負担がかかり、ケガのリスクが高まる。
  • 高温環境では心拍数が上がりやすく、心臓に負担がかかり心臓への負担が大きい。
  • 交感神経が過剰に刺激されやすく、自律神経のバランスが乱れることがある。 特に50代前後の方は更年期の影響で自律神経の調整が難しいことが多いため、ホットヨガがかえって体調を崩す原因になりかねない。

アクティブ・エイジングのためのヨガとは

まず、前置きとして「私は体が硬いからヨガなんて無理」と思わないでください。むしろ体が硬いと思っている人ほど、これ以上、加齢で硬くならないようにヨガをやっていただきたいと思います。

ヨガのクラスを選ぶ際には、柔軟性を重視していたり、見た目にきれいなポーズをとることが上級者であるようなクラスは避けましょう。参加者の体に合わせて、ポーズの取り方のオプション(一般的に軽減法と言われています)を示してくれるようなインストラクターを選びましょう。さまざまなヨガのスタイルがありますので、まずは一度はお試し体験や見学をしてみましょう。

ヨガに参加する際の心得としては、決して無理をしないこと。他の人と較べないこと。少しでも痛みがあったら、それ以上はポーズを深めようとしないことです。

手前みそになりますが、当協会(日本ヨガメディカル協会)の推奨するヨガセラピーでは、「ヨガのポーズに体を合わせるのではなく、一人ひとりの体の状態にヨガを合わせる」ことを最も大切にして個々の体調や体の状態だけでなく心の状態にも合わせてヨガのポーズや動きを調整します。

ヨガのアクティブ・エイジング効果

  • 腰痛や関節痛の予防・緩和
  • 適度なストレッチと筋力維持により、慢性的な腰痛や膝の痛みを軽減。
  • 呼吸機能の改善とリラクゼーション
  • 深い呼吸を行うことで、呼吸筋を鍛え、ストレスを軽減
  • 転倒予防のためのバランス強化
  • 自律神経の調整
  • 更年期障害や不眠症などの改善に役立つ。
  • 心と身体の健康を統合的にサポート
  • 身体を動かすだけでなく、心の安定にもつながる。

ヴォンダ医師は、「加齢は避けられないが、衰えは選択できる」 と言っています。「加齢は活力から衰弱へと必然的に進むものだ」という一般的な考えに異議を唱え、私たちがどのように年齢を重ねるか(健康と加齢のプロセス)は、かなりの部分で(約70%)自分自身の選択によるものである と述べています。