Voo Sound(ヴー・サウンド)

迷走神経を刺激し、自律神経のバランスを整える方法の一つに、声の振動を使った発声法があります。
その中でも、ソマティック・エクスペリエンシング(Somatic Experiencing)の創始者であり、トラウマ療法の第一人者 Peter Levine(ピーター・ラヴィーン) が考案した方法として知られるのが 「Voo Sound(ヴー・サウンド)」 です。

Levine は、トラウマは出来事そのものではなく「神経系が脅威反応を完了できずに凍りついた状態」によって起こると考えました。
Voo Sound は、低く長い「Voo(ヴー)」という音を響かせることで、胸・喉・顔・横隔膜を通る迷走神経に振動を与え、安全感を回復する方法です。

ポリヴェーガル理論との親和性

ポリヴェーガル理論(Stephen Porges博士が提唱)では、副交感神経の一部である迷走神経は大きく腹側迷走神経背側迷走神経に分けられます。

  • 腹側迷走神経は、安心感・つながり感・社会的交流を司る
  • 背側迷走神経は、極度のストレス時に心身をシャットダウンさせる

Voo Sound の低音振動は、顔や喉を通る神経経路に直接働きかけ、腹側迷走神経の活動を高めます。
さらに、長い呼気は副交感神経全体を活性化させ、交感神経の高ぶりから安全・安定の状態へシフトしやすくなります。

つまり、Voo Sound はポリヴェーガル理論の「安全な状態(腹側迷走神経優位)」への切り替えを促す実践法と言えます。

Voo Sound のやり方

  1. 姿勢:楽に座り、足裏や坐骨の接地感を感じます。
  2. 吸気:鼻からゆっくりと息を吸い込みます。
  3. 発声:口を軽くすぼめ、低いトーンで「うー(Voo)」と声を出しながら吐きます。
    • 口はストローをくわえるくらいの大きさで、突き出す必要はありません。
    • 胸や喉が振動している感覚に意識を向けます。
  4. 時間:息が苦しくなるまで行う必要はありません。少し休んでから、3分程度を目安に繰り返します。

古代から使われてきた「音による調整」

ヨガや瞑想の伝統でも、数千年にわたり音を用いた心身調整法が行われてきました。
特に有名なのは**「オーム(AUM)」**で、その共鳴は迷走神経を刺激し、深いリラックスを促すとされます。
オームの本来の意味は、

  • 「A」=創造
  • 「U」=維持
  • 「M」=破壊・終焉
    この3音が統合され、宇宙全体を表す神聖な音とされます。

興味深いことに、キリスト教の「アーメン(Amen)」、チベット仏教の「オーン(Om)」、イスラム教の「アーミーン(Ameen)」なども、響きがよく似ています。人類共通で神聖視される音は、形は違えど根源的な部分でつながっているのかもしれません。

クラスでの実践と体験談

ある日のヨガセラピー講座で、この「うー」音を数分間行ったところ、翌週、参加者のお一人から「偏頭痛持ちなんですが、痛くなりそうなときに『うー』をやったら、偏頭痛が来ませんでした!」というお声をいただきました。その方が教えている病院内のヨガクラブでも紹介したところ、他の偏頭痛持ちの方にも効いたとのご報告をいただきました。

もちろん全ての人に同じ効果があるとは限りませんが、安全で副作用のないセルフケアとして、日常に取り入れる価値は十分あるかと思います。

以下はPeter Levine博士自身がVoo Soundを紹介している動画です。(動画はVoo Soundを行う場所から始まるようにしています。)この動画はコロナ禍中に博士がアップしたものですが、動画の始めの方では、コロナ禍でストレスに押しつぶされそうになっていた看護師さん達が、このVoo Soundを実践することで精神的に救われたというエピソードを語っています。