最近、ペンシルバニア大学のマーティン・セリグマン教授のオンライン講座で学んだポジティブサイコロジーについて、ごくごく簡単に紹介します。

ポジティブサイコロジー:幸福の追求

従来の心理学、特に臨床心理学や精神病理学の分野では、うつ病などの精神疾患の治療において、過去の経験やトラウマの影響を重視ししていました。しかし、近年注目されているポジティブサイコロジー(肯定的心理学)では、疾患の治療ではなく、人々が幸福感を高め、より充実した人生を送るために必要な要素や具体的なアプローチを探求しています。

ポジティブサイコロジーは、1998年にアメリカ、ペンシルバニア大学の心理学者マーティン・セリグマン教授によって提唱されました。

幸せの5大要素PERMA

ポジティブサイコロジーで定義された、より豊かで充実した人生を送るための5つの重要な要素がPERMAモデルです。

PERMAとは、Positive(ポジティブな感情)、Engagement(没入感、集中)、Relationship(良好な人間関係)、Meaning(生きる意味)、Accomplishment(達成感)で、それぞれの頭文字を取ってPERMAと呼ばれています。

以下は、それぞれの要素が個人の幸福感にどのように寄与するかについてです。

Positive Emotion(ポジティブな感情)

ただ単にポジティブな感情を求めるのではなく、ポジティブとネガティブの両方の感情を理解し、ポジティブな感情だけでなく、ネガティブな感情も意味のある経験として捉えることで、感情の浮き沈みに対して強い耐性を持つことができます。そして、ポジティブな感情を意識的に増やすことで、ネガティブな感情に巻き込まれにくくもなります。ポジティブサイコロジーは、それによって、一時的な幸福感ではなく、長期的で持続可能なな心の安定と幸福感を育むという視点に基づいています。

たとえば、ネガティブな人へのアプローチとしては・・・
①認知行動療法などを通して自分の考え方の否定的思考に気づき、意識的にポジティブな感情を選び取る。
②マインドフルネスを通して現在の瞬間に集中する。
③困難や逆境に直面した時、そこから学びを得る自己成長の機会ととらえる。

ポジティブな感情を育む教育プログラムが長期的な心理的健康に与える効果を実証するSEL(社会情動学習)の研究があります。この研究では、幼少期に感情調整を学ぶことが、成人期においてもレジリエンスや幸福感を高めるとされています。

Engagement(没頭)

没頭とは、自分の能力と興味を最大限に活かし、何かに完全に集中して取り組む状態のことです。これを「フロー」と呼び、時間の感覚がなくなるほど集中する経験を指します。

仕事や趣味、スポーツなど、没頭できる活動に取り組むことで、個人は成長し、達成感を感じることができます。何かに没頭することは、単に楽しさを感じるだけでなく、達成感や自己効力感を高め、幸福感をもたらします。

Relationships(良好な人間関係)

良好な人間関係は、私たちが困難に直面したときに支えとなり、安心感をもたらしストレスを軽減します。また自己肯定感や社会的なつながりを強化し、個人のウェルビーイングを促進します。

Meaning(生きる意味)

生きる意味は、人生に目的を感じるために重要です。自分の存在や行動が他者や社会にとってどのような価値を持つかを認識することで、人は自己の意義を実感することができ、人生の幸福感を高めます。

Accomplishment(達成感)

目標を設定し、それを達成することで感じる満足感や成功体験は、自己肯定感を高め、さらなる挑戦への意欲を生み出します。達成感は、自己効力感と強く結びついており、小さな成功体験が積み重なることで、個人はより大きな目標に向かって自信を持って進むことができます。達成感を感じることで、人生の充実度が増し、自己成長につながります。

いきがい

PERMAの5つの要素は、日本語の「いきがい」という言葉で、まるっと表現できるのかな、と思いました。

数年前に、『IKIGAI: The Japanese Secret to a Long and Happy Life』という本がスペイン、イギリス、アメリカでベストセラーになったのをきっかけに、「IKIGAI]とうい言葉を、ちょくちょくアメリカのメディアやブログ記事やSNSで目にしたり耳にするようになりました。

日本人にしてみると、「いきがい」という言葉は当たり前すぎて「なぜ???」という感じですよね。英語で「いきがい」を正確に表現しようとすると、Purpose(目的)、Passion(情熱)、Meaning(意義)、Self-actualization(自己実現)と、いくつもの言葉を組み合わせる必要があります。つまり、英語には「いきがい」のように、それらを包括的に捉えられる言葉がないのです。

1980年代の日本が破竹の勢いだったバブル期には「Kaizen」という言葉が流行ったことがありましたが、スペイン、イギリス、アメリカなどの今の時代にフィットした理想的な言葉が「IKIGAI」だったのでしょう。

アメリカでは、この10数年、ミニマリズムやマインドフルネスといったシンプルな生き方に対する関心が高まっており、「いきがい」が包括する、単なる成功や物質的な豊かさを追求するのではなく、個々の内面的な充足感や、やりがいや意義のある活動に重きを置いた価値観が共鳴を生んだようです。

逆に、日本人からしてみると、ポジティブサイコロジーの中で幸福の要素を5つの要因に分解してくれたことにより、より「いきがい」の包括する内容が明確化し理解しやすいと思います。

幸福を感じるための習慣

ポジティブサイコロジ-の生みの親であるマーティン・セリグマン博士は、とりあえず今日からできることとして、寝る前にその日に起こった3つの良いことを書く習慣を勧めています。

たとえば、昨晩私が、寝る前に数えた3つの良いこと。①おいしい肉豆腐ができた。②テニスのフォアハンドが上達した。③息子が電話してきた。