逆流性食道炎を自力で治すまで
私はかれこれ15年ほど前、食後のひどい胸焼けに苦しみ、胃カメラを飲んだ結果、逆流性食道炎と診断されました。
逆流性食道炎の原因は、胃の中のものが簡単に食道に逆流しないために胃と食道の間の蓋の役割をしている下部食道括約筋という筋肉があるのですが、それが加齢、妊娠、もしくは若い人でも暴飲暴食、肥満(腹圧が上がるため)、刺激物の取りすぎなどの生活習慣によって、ゆるんで胃酸が逆流してしまうために食道に炎症を起こしてしまう症状です。ちなみに私は上記の原因のどれも心当たりがありませんでした。
医者では通常、抗胃酸薬を処方されます。つまり胃酸を止めてしまうので、胃の中の物が逆流しても大丈夫だという考えです。
抗胃酸薬が効かなくなった
医者には抗胃酸薬を処方され、一生飲むように言われました。(念のため日本でも胃の専門医にかかりましたが、まったく同じ意見でした。)薬を飲み始めた途端に、奇跡のように胸焼けがなくなり、これなら我慢せずに早く飲めばよかった!と思ったのですが、数年すると、効き目がなくなってきました。医者には、さらに量を増やすか、他の抗胃酸薬に換えるように言われましたが、本当にこのまま抗胃酸薬を一生飲むことは体にいいことなのだろうか?と疑問を持ち始めました。
そこで、色々検索している内に、アメリカのサイトで逆流性食道炎について患者達が話し合っている掲示板を見つけました。その中で多くの人(100余りの書き込みがあり、全部読みましたが、その内のほぼ70%位)が、長年、抗胃酸薬を飲んでいるが効かなくなってきた。それどころか、他の不調も出てきたと書いていました。その中に、「胃酸は体に必要だから出るもの。それを止めてしまう抗胃酸薬は、長期的には、体にさまざまな不調をもたらす。」と書いている投稿が、いくつかあり、目から鱗でした。
そこで、さらに、検索を進めている内にChris Kresserという医師の本を発見しました。そこに書いてあることを読んで、「これだ!」と思いました。
【2021年12月23日追記1】先日、NHKの「チョイス」という健康番組で、逆流性食道炎について専門家が詳しく話をしていました。その中で、順天堂大学消化器内科教授の永原先生という方が、『胃酸過多ってすごくわかりやすい言葉ですが、実は胃袋っていつも目一杯胃酸を出しているんです。胃酸が過多になることってないんですよ。胃酸に対して胃の粘膜が刺激されて、脳が過敏になっていることが原因。さらに、脳にストレスがかかって、視床下部からストレスホルモンが出て腸にも炎症を起こす・・・」とのことでした。やっぱり胃酸過多そのものが原因じゃないんだと改めて認識しました。
胃酸は体に必要だから出てる
数十ページにも及ぶので、要旨のみ翻訳します。
「抗胃酸薬を飲み、胃酸が抑えられることで、病原菌が増殖し、感染に対する抵抗力を弱め、体に必要な栄養の吸収力が損なわれ、過敏性腸症候群や胃癌など他の消化系疾患を引き起こすという問題があります。製薬会社は抗胃酸薬を発売した時から、この危険性に築いていて、6週間以上の投薬を薦めていません。ところが、このような薬は数週間どころか数十年も飲んでいる人が、一般的にいます。製薬会社は抗胃酸薬で7億ドル以上の収益をあげています。・・・・胸焼けやGERD(逆流性食道炎)は、シンプルな食事制限とライフスタイルの変更によって簡単に治せるのです。」
胸焼けの原因は胃酸欠乏?
Chris Kresser医師によると、胸焼けの原因は、胃酸過多ではなく、むしろ胃酸欠乏によることが多いとのことでした。胃酸の少ない環境の中で、胃の中のバクテリアが増え、それによって、下部食道括約筋がダメージを受けて弱る、逆流性食道炎になるという構図です。
【バクテリアの増殖】
バクテリア(菌)は、酸性が強いと増殖できませんが(酸の殺菌作用のため)、酸性が弱くなると繁殖を始めます。今、市場で売られているTagametやZantacでは、酸性は著しく弱まり、Prilosec(PPI)においては一日を通して、酸度を90~95%まで抑え、処方どおりに飲んで酸性がゼロになったという実験結果さえあります。また、
【消化吸収力が弱まる】
また、炭水化物の消化と吸収には、胃酸が必要です(胃酸が膵臓酵素が出るのを促します)。胃酸が少ないと、炭水化物は完全に消化されずに発酵してガスを発生します。それが胃もたれの原因になるというのです。 さらに胃酸には食べ物の消化や血液を造るための鉄分の吸収を助ける役割もありますので長期に胃酸を抑える薬を服用することにより貧血の危険性もあります。
食事の見直し
そこで、再度、自分の食事を見直すことにしました。結論から先に言うと、今では全く薬なしで問題なく過ごしています。
私の場合は、胸焼けするのは、必ず夕飯後でした。朝食や昼食では滅多に起こらないのです。医者に、なぜか理由を尋ねても、うーんと首をかしげるばかり。それで、自分なりに、夜に口に入れるものを、その日によって変えて、その後の胸焼け度を記録してみました。
たとえば、たんぱく質をまったく摂らない日。炭水化物をまったく摂らない日。糖分を摂らない日、乳製品を摂らない日、パン類を食べない日、酸性のものを摂らない日、お茶を飲まない日などなどです。
それで大体わかってきたのが、やはり炭水化物を多く食べた日には、ひどい胸焼けがすること。夕飯後の緑茶も胸焼けの原因であること(おそらくカフェインが原因)、そして、何よりも食後のデザート(果物も含む)を食べた時に、さらにひどい胸焼けがすることに気づきました。
砂糖、カフェイン、炭水化物を減らしてみる
こんな簡単なことに、なんで気づかなかったのだろうと思いましたが、炭水化物も緑茶も砂糖も、あまりに日常的な食生活の中に含まれているために、まったく考えてもみなかったのです。特に、砂糖は実に人の健康に良くない!ということも、今更ながらですが学びました。(話しは逸れますが、カロリーゼロの飲料の人口甘味料も別の意味で問題だと思っています。それは番外になるので、この記事の一番下に書きます。)
私は、それまで大の甘党、そして大のパン好きでした。でも、苦しい胸焼けから開放されるなら!と甘い物断ちをしました。中毒のようなものですから、しばらくは辛かったですが、今では、ほとんど夕飯の後に欲しいと思わなくなりました。幸運なことに、夕方4時以前なら甘いものを食べても胸焼けが起こらないということも発見したので、どうしても食べたい時は時間を選んで少量食べています。私の場合は、何よりもお砂糖が一番の原因であることは間違いありません。
逆流性食道炎が完治したと思った後でも、たとえば義理のお母さんがデザートを作って夕飯に訪れたような場合、食べてしまって、胃もたれに苦しむということが何度もありました。今では、義理のお母さんに事情を説明して、「明日いただきますね。」と言うようにしています。
Kresser医師は以下を提唱しています。炭水化物の摂取を減らす。特に加工食品の類に入る炭水化物の摂取を控える。人口甘味料、ブドウ糖果糖液糖を避ける。繊維質の高い食物も菌の繁殖を促進しうる。酵素を摂る。
残念ながら日本では手に入りにくいのですが、アメリカでは健康食品店ならどこでも売っている「ペプシン」を含む塩酸ベタイン Betaine HCL (with) Pepsin というサプリとDGL(Deglycyrrhizinated Licorice Extract/甘草)が、胃酸補助の役割をして、とてもよく効くのですが(ペプシンは動物の胃で働くタンパク質分解酵素の一つ)、日本語でネット検索しても出てきません。唯一iherb.comというアメリカサイトが、日本にも送ってくれるようですので、興味のある方は試してみてください(自己責任でお願いします)。食事の直前か最初の方で飲むことが薦められています。私は、今では、このサプリもなしで大丈夫になりました。
【2021年12月23日追記2】やはり「チョイス」出演の医師が言っていたことと一致してきます。以下3枚の画像は番組中に撮った写真です。
胸焼けをヨガで緩和
胸焼けが起きた時、ヨガのポーズでもできることがあります。まず食事の後に一番やってはいけないのが、背中が丸まった前かがみの姿勢で椅子やソファーに座ることです。腹圧が増すのと、胃と食道の間の弁である下部食道括約筋が圧迫されてしまうからです。
ヨガブロック
できればヨガブロックを二つ用意してください。ダイソーでも売っているのは確認しました。そして、ブロックを以下のように置いて、仰向けに寝ます。胸の下のブロックは、左右の肩甲骨の間、ブラの紐が当たる場所に下の角が来ます。この姿勢で、食後しばらく休んでください。また胸焼けが始まった場合に、この姿勢で休むといいです。深い呼吸を続けてください。
バスタオル2枚で
とりあえず今すぐ試してみたいという方は、厚めのバスタオルを二枚重ねて、まず半分に折ります。それをクルクルと固めに巻いていきます。巻きずしを作る感じです。それを床に置き、肩甲骨に少し引っかかるあたり(下図参照)に、そのロールが来るように仰向けに寝ます。膝を立てて、すこし足で床を遠くに押します。するとロールが少し腰側にずれると同時に背中の皮が引っ張られて、同時に胸がより開く感覚が得られると思います(この時点ではロールは既に肩甲骨に乗っていません。)。腕はTの字、脚はまっすぐに伸ばしますが、腰が反ってしまうようであれば膝は立てたままの方がいいです。ゆっくりと静かに深い呼吸を繰り替えします。
その状態に体がなじんで来たら、息を吸いながら両腕を上げてバンザイしてノビーン。上体がぐぐっと引っ張られる感じが得られると思います。また内臓も引っ張られる感じが得られるかもしれません(下の最初の動画で逆流性食道炎のメカニズムがわかりますが、胸のあたりを反らして腕を頭上に上げて上体を上下に引っ張り伸ばすことで、食道が伸びるイメージを思い描きながらやってみてください。)。そのままの姿勢で、ゆっくりと静かで深い呼吸を続けてください。ロールの太さはタオルを減らしたり増やしたりで自分に合わせて調整しましょう。
テニスボールで背中ごりごり
背骨の周りには自律神経の内の交感神経があります。ですので、背中の凝りを緩めてあげると自律神経の緊張がほぐれて、胸やけがすっきりします。
テニスボールを二つ少しだけ離して横に並べて(もしくは、長めのソックスの中に二つ入れて端を縛ります。)、背骨の両脇にちょうど当たるように調整して仰向けに寝ます。膝を立てて、足を床。お尻を少し浮かせて、肩甲骨を避けて、その下あたりから背中、お腹の後ろまでゴロゴロします。気持ち良いと感じる場所を特に集中的にゴロゴロ転がしていると、胃や食道がスッキリします。背中の凝りもほぐれます。
もうちょっとお金をかけてもいい人は、「中山式快癒器」を上記と同じように脊椎の両脇に当ててマッサージしていきます。この地味な器具は、実家整理で出てきたもので、父が何十年も前に買ったものですが、非常にいい仕事をします。LAから息子たちが遊びに来た時に、気持ちえ~~~と奪われそうになって、ネットで検索したら、なんとアマゾンドットコムでも売っていたので、クリスマスにプレゼントしました。(笑)
仰向けの英雄座
ヨガを日常やっている方で膝に問題がない方は「仰向けの英雄のポーズ」がお勧めです。(正座が苦手な人は止めて、上記のポーズにしましょう。)緑の部分はヨガに使うボールスターです。ない場合は、お布団とか座布団が利用できるかもしれません。お尻はボールスターの上に乗せボールスターの前に座ってください。腰がアーチしすぎるようであれば、お尻の下に座布団などを敷いてください。紫はヨガブランケット(またはバスタオル)を巻いて首が楽なように枕にしてください。腕を頭上に上げて上半身をぐぐ~っと伸ばすようにしてみてください。深い呼吸を続けてください。体の前面、特にみぞおちの辺りが、ぐぐっと伸び、胃から食道も一緒に引き伸ばされる感覚を味わってください。私の場合は、以上の方法のどれか一つ、または組み合わせることで大抵の胸焼けは10分以内に消えて行きます。
このポーズは消化器、泌尿器、また生理痛の緩和に効果があると言われています。
【2021年12月23日追記3】チョイス出演の医師も言っているように、様々な病気が実はストレスが原因になっていることがわかってきています。アメリカでは、ストレスへのアプローチとして、いち早くヨガセラピーが医療者に受け入れられました。残念ながら、日本では、まだそのムーブメントは始まったばかりです。ゆっくりと行うセラピーとしてのヨガがいい理由は、
①ゆっくりと呼吸とともに動くヨガは副交感神経を優位にします。自律神経がととのうことで筋肉もゆるみストレス症状も緩和できます。
②背骨周りの筋肉が固くなると、内臓につながっている神経も圧迫され、結果的に内臓の働きも悪くなります。その反対に内臓に問題があると胸郭をとりまく筋肉が固くなります。ヨガは筋肉を、あらゆる方向にストレッチしたり縮めたりしますので、背中がほぐれ、内臓もほぐれます。
ストレスの多い生活をしていると背中や腰が凝ってくる経験はありませんか?心と体の痛みや凝りは深くつながっています。ゆったりとした呼吸をしながら心と体の緊張を解くヨガは心と体の両方に働きかけます。
アメリカでは、今、多くのヨガのリサーチが行われており、さまざまな症状に対する有用性が証明されています。
逆流性食道炎が起こる仕組み
以下は逆流性食道炎が起こる仕組みです。英語が理解できなくても動画だけでも十分にわかると思います。
赤茶色のくらげのような部分が横隔膜です横隔膜に穴が開いていて、下に胃、上に食道があるのがわかります。横隔膜は、膜という名前がついていますが、呼吸をコントロールする筋肉です。
横隔膜の上にテルテル坊主の頭のように飛び出ししまった状態が 食道裂孔ヘルニア です。
横隔膜は腰椎、胸骨、肋骨とくっついています。ですので、上で紹介したようなポーズで背骨を伸ばし、お腹~胸を開き、さらに大きく呼吸を続けることで、横隔膜からのアプローチで内臓を内側からマッサージし、さらには体を少し起こした状態を保つことにより胸焼けがおさまってくるものと考えられます。
下は横隔膜の3D動画です。
座る時の姿勢も見直しましょう
食後に腰や背中や肩が丸まった状態で座るのが逆流性食道炎には、非常に良くないことは既に書きましたが、座る場合には、肩甲骨のすぐ下あたりにバスタオルなどを丸めたものを当てて、とにかくお腹が圧迫されず胸が開いた状態を保つようにしましょう。
薬との付き合い方
症状がひどい場合は食道や胃に炎症が起きている状態ですのでとりあえずは、胃酸を抑える薬などを飲むのはありだと私は思います。私も何か月も自然治癒を目指して頑張った末に良くならず、とうとう処方薬を飲んだ時の、ものすごい効果に「早く飲めばよかった~」と思ったものです。問題は、薬を飲み続けること、そして薬を飲んで症状が改善されて、食生活を見直さないことににあると思っています。
番外編
【人工甘味料と肥満の関係】
米国Purdue大学のあるリサーチによると、味は甘いのに砂糖ではない人口甘味料は、食べ物の甘さなどによってカロリーを計算し、食べる量を制御する体に備わった自然の能力を混乱させてしまう(甘いものはカロリーがないから太らないと体が勘違いして食べ過ぎてしまう。)という説を発表しました。自分の体重に適した分だけ食べる制御力が欠けたアメリカ人が増えていることも、この発見によって説明できるかもしれないとしています。実際アメリカでの人工甘味料の消費量の増加と肥満人口の増加がほぼ一致しているんだそうです。
村松ホーバン由美子:日本ヨガメディカル協会公認講師&WEB編集責任者
E-RYT500、C-IAYT(国際ヨガセラピスト協会認定セラピスト)、介護予防指導士、米国シニアヨガ指導士、ムーブメントセラピー指導者、日英通訳翻訳。埼玉県在住。
【担当講座】「解剖学② ヨガセラピー✖筋膜」「ヨガ✖ポリヴェーガル理論✖自律神経」「様々なポーズの軽減法」