肩関節は人間の関節の中で肩は最も大きく動きさらに複雑な動きをする関節です。そのためヨガを熱心にやっている人の回旋筋腱板(かいせんきんけんばん Rotator cuff)ローテーターカフの怪我は、非常に一般的です。上腕と肩の前面に痛みを感じることが多いです。

棘上筋のインピンジメント

特に棘上筋は、最も故障しやすい部分です。それは棘上筋は、下の図のように大変薄い筋肉である上に肩峰という骨の下の狭い隙間を縫うように走っているため、肩峰と上腕骨頭に挟まれ(インピンジメント=衝突、狭まるという意味)、繰り返し運動による負担で裂けたり、完全に断裂してしまうこともあります。ロープが繰り返し一箇所に摩擦を受けることで切れてしまうのと同じ原理です。インピンジメントはピッチャーやペンキ塗りなど腕を上げ酷使することが多い職業で発生しやすいです。

肩峰も形に個人差があるので、ある人には有効なポーズのキュー(指示)が別の人に有効とは限りません。

また、体の後ろで手を組むポーズ(牛飼いのポーズなど)でも、簡単に組めない人は肩周りが堅いのではなく、もしかしたら骨の形によるものかもしれません。もし骨の形によるものだとしたら、無理にがんばって後ろで手を組むことで、棘上筋の断裂につながってしまうかもしれません。

棘上筋に障害があると腕を伸ばして真横に持ち上げた時、60度から120度で痛みを強く感じます。戦士のポーズ2で、腕を真横に上げたり、イーグルのポーズでは、腕を胸の前で交叉させるのが辛く感じるはずです。

肩の痛みを起こしやすい一番悪名高いポーズは、Chaturanga(チャトランガ)ですが、ダウンドッグなど肩に体重がかかるポーズでも肩のアライメントが悪ければ、やがては肩の故障につながります。

肩甲骨を下げてはいけない時

ヨガのクラスでよく耳にする指示が「肩甲骨を下げて」「腕を肩関節に引き入れて」などです。これは不安定になりがちな肩を安定させるための指示です。

「耳から肩を引き離して」
「肩甲骨を下げて」
「肩甲骨を寄せて下げて」

以上の指示は、腕が肩より下にあるポーズにおいて有効ですし、特に猫背気味の人に胸を開いてもらうための指示としては非常に有効です。また、賢者のポーズ(Vasisthasana ヴァシツァ・アーサナ Side Plank Pose)や一本足のポーズ(Utthita Hasta Padangusthasana  ウティタ・ハシュタ・パダングシュターサナ Extended Hand-to-Big-Toe Pose)などでも、肩甲骨を固定することでポーズが安定して、伸びが出ます。

私も、もちろん、どのポーズでも忠実に行っていたのですが、右の上腕に痛みを感じるようになり、その内に腕を挙げるのが苦痛なほどになってきました。全てを正しく動かしているはずなのに、どうしてだろうと、インターネットでローテータカフの怪我について、色々と検索して行って、たどりついたのが「肩甲骨を引き下げて」というヨガ教室で連発される指示に対して警鐘を慣らす、いくつかの記事でした。

結論から先に書きますと

「腕を肩より高く上げる場合には、決して肩甲骨を固定しないこと。別の言葉で言うと、決して左右の肩甲骨を寄せたままの状態で手を肩より上に上げないことです。」

これはヨガだけでなく、フリーウェイト・トレーニングをする場合にも同じことです。

解決法

タダサナから腕を回し上げる際に以下を意識してやってみてください。肩から腕を外旋→伸ばす(遠くの物を取るように)という意識で息を大きく吸いながら上げて行きます。外旋というのは、ヒッチハイクする時の腕の回転方向です。(腕が体の真横に来た時は、手の平が天井を向きます。)

医師達にも確認してみました

私がお世話になっているカイロプラクティスの先生に聞いてみたところ、”That makes sense.”「理にかなっている」と言われました。

腕が上がる角度というのは、非常に限られているため、腕を完全に頭上に挙げるためには肩甲骨がその役割を担っている。腕を肩関節に引き込んでしまうと肩甲骨が固定されてしまうため、肩甲骨を動かさないようにして腕の可動域を越えて無理やり腕を挙げようとすると腱板の衝突に起因する肩関節の障害になる。」ということです。

Physical therapist(理学療法士)にも聞いてみましたが、カイロの先生とまったく同意見でした。

さらに、スポーツ専門の整形外科の先生にも聞いてみましたが、これまた同意見でした。肩甲骨を固定したまま腕を上げる行為は、ただでさえ狭い肩峰突起の下の隙間が、さらに狭まって、それが狭い空間を走っている神経や筋肉や靭帯を挟んで、裂傷を起こしたり最悪の場合は切れてしまうのだそうです。(肩峰突起は人によって形が違うそうです。あまりにも肩峰突起の下の隙間が狭い場合には、底部分を削って隙間を作る手術をすることもあるそうです。)また 棘上筋 が切れていなくてもその下でクッションの役割をして摩擦を防いでくれている肩峰下滑液包が炎症を起こして得る場合もあります。私の場合は、まずこの部分の炎症を抑えるために、コルチゾン(副腎皮質ステロイド)を肩に注射してもらいました。

ということで3ストライクで「頭上に腕を上げるポーズでの肩甲骨を下げるCueは」は完全にアウトです。いまだに、どんなポーズでも肩甲骨を下げてと言っているインストラクターも多いので、注意が必要です。††††

腕が頭上のポーズの時の肩の動き

そして最後の写真がダウンドッグなどのように肩に体重の負荷がかかる場合に肩を守るための肩の動かし方で以下のキュー(全部同じことを別の言葉で言ってます。)を説明しています。

腕を外旋させると肩甲骨は左右に離れ肋骨を前に向かって包みこみ、それによって必要な隙間が生まれます。

しつこいですが、「腕を肩より上に上げる肩甲骨の可動域を利用する動作においては、肩甲骨を固定しない」ことが重要です。このような動きには、ちゃんと名前があって、Scapulohumeral Rhythm(肩甲上腕リズム)といいます。

ダウンドッグを極める

下の動画は、正しく手を回し上げる動作を詳しく解説しています。

動画の10秒:肩甲上腕リズムの肩甲骨の動きがギリシャ彫刻のように美しく、よくわかります。

動画の45秒:腕を真上に上げた状態の外旋の方向がよくわかります。小指を天井にひっぱりあげるようにします。

動画の1分45秒:反対の手で腕を回してあげる動作ですが、これも小指を天井にひっぱりあげるようにしながらやってください。肩のセラピーにもなります。

2分59秒:ダウンドッグの3ステップです。

  1. 上腕を外旋。
  2. 前腕は反対に内旋。両手の内側(親指側)でマットを押します。
  3. お尻を高く上げて、肋骨から手に向かって腕を伸ばします。肩甲骨を(頭の方に向かって)上げます。

3分37秒:脇の下が下がった悪いNG例です。


最初に上腕を外旋させることにより肩峰の下により隙間ができるため、 棘上筋 のインピンジメントが回避されます。

人の肩は最も自由に動く関節です。そのために、不安定になりやすいという宿命を背負っています。しっかりと正しい動きを実につけて、怪我をせずに長くヨガを続けましょう。

棘上筋の深い断裂から回復するまでの個人的体験談

最後に私がMRIで 右肩の棘上筋の深い断裂と診断されてからの経過を書きます。まず上記に書いた通り、60度から120度に横に手を回し上げる動作ができなくなり、鍋を持つにも力が入らない状態になりました。テニスをすると、フォアハンドではボールを受ける時に、まったく力が入らない、腕の踏ん張りが効かない感覚になりました。右肩を下にして横向きに寝ると痛みで目が覚めることもしばしば。上にしても、肩が前傾すると痛かったです。

医者には、手術を勧められましたが、まずはフィジカルセラピーに通ってみました。まったく効果がなかったです。

ヨガでした怪我はヨガで治してみせると決意して、Youtubeで検索しまくって色々な動作を試してみました。でも、どれも効果なし。ある日、飛び込みで行ったヨガクラスで自分を抱きしめてグルグル上半身を回す動きをした後に、肩の痛みが和らいでいることに気づきました。

そこで毎日、続けたところ1ヶ月位で、痛みがほとんど消えました。あれから3年以上、今も毎日、この体操は続けています。先にも書いたとおり、骨の形は人それぞれなので、この体操が全員に有効かはわかりませんが、興味がある方のために、もう少し詳しく書きます。

1.背筋を伸ばし両腕を体側で外旋させながら床に平行になるまで持ち上げます。(猫背になって肩先が前傾しないように。手のひらは天井を向く。)

胸の前で両腕を深く交差させます。(背中が丸まらないように)

2.自分をしっかりと抱きしめて(力をこめて抱きしめることで肩関節の周りの筋肉を鍛えることにもなります。)、できる限り胸から上をぐるぐるとゆっくりゆっくりと呼吸をしながら回します。正しくできていれば肩甲骨も一緒に動きます。

腰だけがぐるぐる回って胸から上が全然回っていない場合が多いので、鏡の前で立ってやってみてください。腕を組み替えて反対周り。

3.肩周りが柔軟な方の場合は、イーグルのポーズ腕を絡めたら、その腕を引き離すような意識を持ちながら、ぐるぐる回してみてください。(痛みがマックスの時は、どうしてもイーグルだと肩が前傾するので、痛みが出るので、その場合は無理にならないでください。)

完全に元の状態になったと感じるまでは試行錯誤で2年を要しましたが、手術しなくてよかったと思っています。あくまでも個人の意見です。

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