国際ヨガセラピスト協会創立者

初回インタビューにお答えいただいた国際ヨガセラピスト協会創立者ラリー・ペイン氏が、共同創始者であるリチャード・ミラー氏につなげてくださいました。

ミラー氏はアメリカの臨床心理学者であり非二元的ヨガ研究者として知られています。ヨガ瞑想から開発したiRest(Integrative Restoration)「統合的回復」は 慢性的な痛みに関する代替医療(CAM)として承認され、 米軍施設において帰還兵のPTSD(心的外傷後ストレス障害)の治療に生かされるとともに、多発性硬化症やがん外来、大学、薬物依存クリニック、ホームレスシェルター、刑務所、ホスピス、高齢者向け施設においても高い評価を得ています。

IAYTを創めた動機と、その時に抱いた将来のビジョンとゴールを教えてください。

1970年代、ヨガ実践者として、またヨガセラピストとして私はアメリカでヨガセラピーという分野が開花し始めたことにワクワクしていました。インドのマドラスに暮らしながらTKVデスカチャーの元でヨガセラピーを学んでいた時に共同創立者となるラリー・ペーン氏と出会いました。

ラリーと私はヨガ、医療、精神医療、それぞれの分野からプロフェッショナルとして尊重されるヨガセラピーを発展させたいとの共通の思いを抱き、計画を立て始めました。ラリーはビジネスとマーケティングの経験があり、私は健全なヨガおよび医療の原則に基づいた理論的で実用的な資料をまとめたヨガの指導者が読む専門誌を作ることに興味がありました。指導者が生徒となる個人やグループを理解し、より効果的なケアをする能力を強化するための専門誌が必要だと思ったのです。

ラリーと私は共同創立者になることに同意し、ラリーはビジネス業務に集中し、私は専門誌を作り編集することに集中することにしました。私たちのビジョンは、世界にアピールできる専門的な組織と専門誌をつくり、ヨガセラピーをヨガとヘルスケアの一分野としてリスペクトされる地位に向上させることでした。

お若い時に、ホットヨガとして知られるビクラム・ヨガをやられていたそうですが、なぜより身体的なヨガからヨガセラピーに興味がシフトしたのでしょう?

私は1970年にインテグラル・ヨガ・インスティテュ-トそして、スワミ《ヒンズー教の学者・宗教家などに対する尊称》・サッチダナンダ氏を通してヨガを学び始めました。そして1973年にビクラム・チョードリー氏に学び始め、やがて彼にサンフランシスコとロサンジェルスのスタジオで教えるよう頼まれました。

当時は、そして今もですが、多くの人が、このスタイルのホットヨガに惹かれていました。多くの人が恩恵を受けていたことは確かですが、ポーズを過激にやりすぎて多くの人が怪我をしているのも目にしました。

1974年に自分のスタジオをオープンした際に、私は人々にヨガには危険性もありうること、より体にやさしい個々人のニーズに合わせたヨガがあることを知って欲しいと思いました。TKVデスカチャー氏との学びを通して、私はプライベートレッスンであってもグループレッスンであっても一人ひとりに教えることのできるよう腕を磨きました。

現在のリチャード先生のフォーカスは“iRest(アイ・レスト)”という教えですが、誰にでもわかりやすい言葉で説明していただけますか?

ヨガニードラは心理的、身体的、スピリチュアルなヒーリングをサポートする古来の瞑想修行です。「ヨガニードラ」という言葉は二つのサンスクリット語から成ります。ヨガは、自分自身とすべての命との相互のつながりを経験すること:本質への目覚めを意味します。「ニードラ」とは、眠り:本質に対して無意識の状態。「ヨガニードラ」とは、すべての意識状態を通して真髄(本質)に覚醒していることです。

ヨガニードラは自分自身とのつながり、そして自分の周りの世界とのつながりを感じることを助けるための練習で構成されています。

自分が経験している心や体がどんな状態であれ、自分の考えや感情や行動が(刺激に対して)「反応」するのではなく、「対応」することを教えるプログラムです。すべての本能的な感覚、感情、思考に対して、あるがままに感じ、認識し、迎え入れ、対応することを助けるツールを提供します。それによって自分自身や他者と内面でつながり対応する感覚を得ることができます。

別の言葉に言いかえれば、ヨガニードラは私たちを正しい軌道に戻し、その軌道に留め、意味と目的を持って生きる手助けをします。

Integrative Restoration(統合的回復)iRestヨガニードラは古代インドのヨガ瞑想(ヨガニードラ)を現代社会に適合するように発展させた瞑想法です。iRestは健康、癒し、生命のすべてのレベル(身体的、心理的、霊的なレベル)における健全さ(ウェルネス)にフォーカスした教育課程です。

どのように自己習得し、心の強さや健全な状態を保つかを教えるセルフケアのツールを提供します。また年齢、文化、宗教、価値観、仕事、スピリチュアルを尊重するプログラムです。

リサーチ

心的外傷後ストレス障害(PTSD)、外傷性脳損傷、慢性痛、不安、ウツ、睡眠障害、仕事に関連したストレスにおいてのiRestの研究も続けられています。その結果、退役軍人や現役軍人、ホームレス、精神疾患者、学生、カウンセラー、ヘルスケアワーカー、多発性硬化症や癌の治療中の人にもセルフケアのツールになっています。

現在、iRestはヨガ療法の一つとして認められ、全米の陸軍病院や、診療所、ホスピス、更正施設、学校など、様々な機関で採用され、人々の心と体の健康に役立っています。

iRestは心と体のストレスやトラウマなどの心理面と身体面に働きかける統合療法です。またiRestはどこにいても、誰と一緒にいても、何をしていても、どんな経験をしていようと経験することのできる自分の内側にある、平和で安全で安心して落ち着ける感覚を見い出す助けとなる回復療法です。

2006年にウォルターリードメディカルセンター主導、防衛省スポンサーで行われたリサーチで、帰還兵たちの心的外傷後ストレス障害(PTSD)からの回復にiRestのクラスが提供されました。その結果、マイアミ、ワシントンDCの退役軍人病院、ブルック陸軍メディカルセンター、その他の多くの軍関連施設でIRESTのクラスが提供されるようになり、この波はさらに広がり、北部アメリカや他の地域でも退役軍人センターや現役軍人施設でも多くの男女がiRestのクラスにグループや個人で参加するようになりました。iRestの詳しいリサーチのリストは、ホームページでご覧いただきます。http://www.iRestInstitute.org.

iRest-10 のステップ

iRestは、体と心と魂の全ての層において癒しをもたらします。iRestは毎日の生活の全ての側面に組み込むことができる統合的アプローチである10の核となる構成要素からできています。

真のウェルビーイングと癒しをもたらすためには、自身の体と心の内側に深く影響しなければなりません。iRestヨガニードラの構成は、過去4,500年以上にもわたり発展してきたものです。そしてそれは、人が治癒は不可能だと感じているかもしれない心理的、身体的、霊的問題の変換を可能にします。実際に、体と心と魂は変化できるのです。

2018年来日講演

iRestの10のステップ

1.心からの願いを見つける:あなたの人生に目的と意味を与える基礎、本質ともいえる一貫したテーマや指針はなんでしょう。
2.意図・目的を明確にする:目的や意図を明確して、それに従って人生を歩むことで、心からの望みを実現することができます。
3.内なる平和の感覚を見つける:自分の内側に安全、安心、やすらぎ、平穏をもたらしてくれる感覚を体感する。(インナーリソースを見つける)
4.身体感覚:身体の感覚に寄り添い、深いリラクゼーションを体験すること。
5.呼吸とエネルギー:呼吸を通してレジリエンス(精神的回復力/ 抵抗力)を経験する。
6.相反する感情と感覚:感情のレジリエンスを経験すること
7.相反する認知とイメージ:思考や考え方のレジリエンスを経験すること
8.喜びと幸福感:環境がどうであろうと内なる平穏を経験すること
9.観察する意識:広いものの見方をすること
10.日常生活との融合:毎日の生活のすべての側面においてiRestの実践をすること

上記の10の核となるiRestの要素を練習し続けることにより希望と自信を持ち、深いリラクゼーションに達し、ストレスを減らし、心を強くし、集中力を深め、感情を統制し、洞察力をつけ、深い睡眠と穏やかな心、喜び、愛、共感、自己愛を心と体にもたらすことができます。

iRestとヨガニードラは禅の瞑想とどう違うのでしょうか。

禅とiRestは、両方とも人の最大限の可能性を目覚めさせ、体現しようとするものです。人を文化的、個人的に課せられた条件から解放し、今この時に気づき、生きる手助けをします。

iRestは古来からあるヨガ瞑想法の現代に適応させた誘導瞑想とのことですが、現代社会に適合するように、どのように変化させたかを、もう少し詳しく教えていただけますか?

1970年代、私はヨガニードラ瞑想の練習を深めていきました。そしてインド以外の文化圏に住む人々に合わせる必要性を感じました。文化的、個人的な側面に配慮して年齢、背景、その他さまざまな問題を尊重するような瞑想にしたいと思いました。

ヨガニードラがそれぞれの人の宗教、哲学、背景にかかわらず受け入れられるよう、まず宗教色をなくしました。このような変更によって、世界のあらゆる文化圏の人々に効果的に伝えることができるようになりました。

次に二つの基本原理を加えました。ひとつは心の底から感じられる目的を持つこと。もうひとつは人々の心の内にある既存の知力や能力や資質を見つけ出すことです。これらの原理によって、人々は、より容易に安心して練習を方向付け進められます。

また5つのコーシャ(さや)、私たちは二分された自己と私という認識を壊し、実践する人が自分自身と、また周りの人々と、さらに全ての宇宙とのつながりを感じ、根底にある本質的な非二元論をより深く経験することができます。ヨガでは、人間はただ単に肉体的な存在ではなくて、「五つの次元の違う鞘(さや)を持っているホリスティックな存在と考えられています。

5つのコーシャ(人間五蔵説)はインド古来のヨーガでは、人間はただ単に肉体的な存在ではなく. 五つの次元の鞘(さや=コーシャ)を持っている. 全人的・ホリスティックな存在です。

iRestでは、さらに6層目の鞘が必要と考えます。6層目の鞘とはAsmitamayaと呼び、その焦点は、二分された自我と私という認識を壊し、実践する人が自分自身と、また周りの人々と、さらに全ての宇宙とのつながりを感じ、根底にある本質的な非二元論(ノン・デュアリティー)をより深く経験することができます。

私は去年ジョン・カバット氏の提唱する8週間のマインドフルネスのクラスを受講しました。リチャード先生のiRestの本も拝読しましたが、共通点も多いように思いますが、特に違う点を教えていただけますか?

iRestはマインドルネスのに一種であるとも言えますが、iRestはジョンカバットジン氏のマインドフルネスのアプローチとはいくつか違う点があります。

まず、ジョンカバット氏のがボディスキャン」は、意識の集中を体のいろんな部位に動かし、それぞれの感覚に気づいていきます。iRestは体の感覚に対して異なるアポローチをします。

それをボディー・センシング(体の感知)と呼びますが、それぞれの感覚、感情、意識をメッセンジャーとしてリスペクトすることを学びます。

ただ単に気づくのではなく、iRestはこれらのメッセンジャーに積極的に応答していきます。そうすることで私たちは自身の感覚や感情や意識に反応するのではなく、むしろ応答するために波長を合わせるのです。

iRestは自身の内に存在する不変、不滅の幸福感を認識し体現し育むことを非常に大切にします。心と体の一部である変わらない「気づき」を知る手助けをします。このような練習をiRestでは初歩の段階から積み上げて行きます。

なぜiRestは心的外傷後ストレス障害(PTSD)やその他の心の病気に有効なのでしょうか?iRestを学ぶことで人々の心に何が起こるのでしょうか?

私は心的外傷後ストレス障害(PTSD)、うつ、心配性、不眠、それに関わるあらゆる不調においてiRestがどのように効果的かを調べる35のリサーチに関わってきました。iRestの有効性は心的外傷後ストレス障害(PTSD)の根本的な原因に積極的に対峙するするツールを教えることにあります。

ほとんどの瞑想やヒーリングプログラムは、人を変えようとします。iRestは、人の変わらず壊すことのできない完全性と気づきと幸福感を悟ってもらおうとするものです。完全になるのではなく、基本的に既にある完全性から学ぶのです。何千人という人がこの基礎原理が彼らの癒しにおいていかに重要であるか、iRestの持つパワーについて明言しています。われわれは全人になるために癒すのではありません。私たちの内に既にある完全性を心と体が癒しのために学ぶのです。

2018年来日講演

今までにiRestでリチャード先生が導いた人の中で最も記憶に残る方があったら教えてください。

日本も含む世界中を旅してiRestを伝える何千もの機会に恵まれました。その中でも、いくつか記憶に残る例を思い出しますと・・・

不幸な人から喜びにあふれる人に

一人目はiRestの最初の練習中に私の声が聞こえず眠ってしまうと訴える女性がいました。彼女はぷいっとクラスを出て行ってしまったので、もう二度と彼女のことを見ることはないだろうと思っていました。

ところが、次の週、彼女はクラスに戻ってきて、こう言ったのです。「私は、とても不幸な人間でした。私は私自身と付き合うことが好きではなく、他の人も私と一緒にいるのを嫌っていました。でも、前回のクラスを取って以来、私の心は喜びであふれ、私は私自身と付き合うことが好きになり、私の周りの人もそう思ってくれるようになりました。一体iRestによって私の心に何が起こったのかわかりませんが、私はこの喜びをもっと味わいたいのです。」

彼女は、全クラスを受講し終わり、それから何年か後に私の元にを訪ね、ずっと人生の喜びは増し続け、不幸な人間ではなくなり、喜びにあふれた人になったと伝えてくれました。

息子さんを取り戻した母

もう一人の女性は私が会議に参加している時に、自分の名札を私に手渡して、iRestを開発したのは、あなたですかと尋ねました。私がそうだと答えると、彼女は突然涙を流し始めました。彼女の息子さんはいくつかのトラウマとなる出来事があり、様々な医療を試したけれども、ずっと立ち直ることができずにいたそうです。息子さんが彼女を訪ねて来た際に、彼女が参加していたiRestのクラスに彼を誘ったそうです。その日の練習の後、彼女は「息子を取り戻した」と感じたそうです。彼女と息子さんはその後も練習を続け、息子さんは完全に立ち直ったそうです。

10年来のうつ病を克服

今まで、多くのウツ病の人たちを見てきました。一人の男性は10年も、ひどいウツ症状を患っていました。彼は多くの精神科医にかかり瞑想などもしていましたが、どれも効果が。彼とのiRestの最初のセッションで、私は前述したように内なる全人性・完全性を認識する手伝いをしました。

根本的なうつの原因である体と心の中にある問題に取り組みました。二度目のセッションに彼が戻ってきたとき、かれはウツから回復する期待感を取り戻すことができたと語りました。それからは、彼の症状に取り組む前に、セッションの度に彼の内に感じた全人感と再びつながることから始めました。数ヶ月の後に、かれのひどいウツは消え、彼の全人感を再強化することを続けたことから深い幸福感が湧き上がってきました。

毎週のように世界中からシンプルでパワフルなこの瞑想のアプローチを通して心の平和を取り戻すことができた人々からメールをいただいています。

iRestは今、医療の現場でも使われているとのことですが、それはどのように実現したのでしょう。たとえばiRestという名前であっても、ヨガニードラや瞑想が西洋医療施設などで受け入れられるには大変なご苦労があったと思いますが。

私はいわゆる3つのPを実践しています。Patience, Perseverance, Persistence.辛抱と忍耐と粘り強さです。私は70年代にヨガセラピーの成功とiRestが医療の専門家から受け入れられる鍵はリサーチだと知りました。何年もかかりましたが、ヨガセラピーに対する関心は高まってきており、ハタヨガ、呼吸、そして瞑想というiRestのプログラムにいたるまで、その効果に対する研究が行われています。

前述しましたように私も今まで35の研究にかかわってきましたし、毎年新しい研究が行われ続けています。私は講座の際に生徒さんたちに、どのようにリサーチに関わるかについても話し合っています。地域の大学やクリニックを通してチームの一員としてリサーチに関わるためのいろいろな方法があることを理解することは重要です。自ら興味を持つと同時に、誰がiRestの研究をすることに興味があるかを医療機関の上層部や大学の学部に問い合わせをする大胆さも大切です。


インタビューを終えて

リチャード先生にインタビューさせて頂くにあたって、前もって先生のご著書を拝読し、iRestのオーディオでの練習を経験してみました。

インタビューでも触れましたが、iRestと私が以前に講座をとったアメリカで今、最も注目を集めているジョン・カバット氏のマインドフルネスとの違いに特に興味がありました。

以下に私なりに違いをまとめてみました。

マインドフルネスは、ごくごく簡単に言ってしまうと、心は木から木へと飛び移るサルように、いろいろな思いや感情やイメージが次から次へととめどなく湧き上がってくるもので、そのままにしておくと、いちいち反応し翻弄され心は乱れっぱなしです。そうならないためには、それらの思いや感情やイメージがわいてきたら気づき、反応せずに手放すことを繰り返します。何度も何度でも繰り返していく内に、それが新しい心の習慣となり、心に平穏が訪れるというものです。(マインドフルネスに関しての私の体験レポートはこちら。

それに対してリチャード先生の提唱するiRestで一番特徴的だと思ったのは、あえてネガティブな思考と感覚を想起して観察し、すぐに反対のポジティブな思考と感覚を想起、観察します。たとえば、重いどんよりした感覚VS軽い明るい感覚、閉塞間VS開放感、などです。

ネガティブVS.ポジティブ感覚をすばやく切り替える練習によって、ネガティブな感情が起こった時に、それに素早く気づき、ポジティブ感覚に切り替える脳トレをします。

このような脳トレを日々の生活の中で繰り返すことで、やがては、それが新しい習慣となり揺らぐことのない心の平安を見つけ出せるということだと思います。ポジティブな感情は、実は誰の心の中にもあるものだとリチャード先生は言います。

仏教で言えば、仏心、つまり一切衆生に本来備わっていると説かれている仏性のことでしょうか?とリチャード先生にお尋ねしたところ。「そうです。」との返答をいただきました。

interviewed & translated by Yumiko Hoban