メディカルヨガの教室に2カ月程前から通っていらっしゃるAさんから、とても嬉しいラインメッセージをいただきました。Aさんは、長年めまいで苦しんでいて、一時は入院もしたことがあるそうです。先日、半年に一度の検査を受けたところ、症状が数値的に大きく改善していたとのことで、主治医にはもう通う必要はないとまで言われたそうです。主治医にヨガを始めたことを話したところ、その先生自身も実はヨガ押しでリハビリに取り入れていらっしゃるとのことでしたが、それでもAさんの症状改善には、「ヨガが、ここまでいいとは!」と驚いていたそうです。

めまいリハビリとしてのヨガ

めまいの治療としては以下の二つが一般的です。

①薬物療法:めまいを改善する薬、吐き気や不安を改善する薬の処方。
②前庭リハビリ(めまいに対する体操で目や首を動かしたり、バランス訓練をすることで前庭機能の向上を目指す:前庭とは内耳にあるバランスを司る神経)

めまいや平衡感覚障害、歩行不安定などの症状を持つ患者に対する治療としてのヨガの可能性を調査した研究がありますので簡単に紹介します。

参照:Effectiveness of vestibular rehabilitation therapy and yoga in the management of chronic peripheral vertigo: A randomized controlled trial
「慢性末梢性めまいの治療における前庭リハビリテーション療法とヨガの有効性:無作為化比較試験」

研究では、めまいの症状がある150人の参加者を、ヨガを行うグループ、前庭リハビリを行うグループ、薬物治療のみを行う3つのグループに無作為に分け1週間に1度、12週間ヨガを行って評価しました。

結果は、グループ1とグループ2では、グループ3と比較して顕著な改善傾向を示しました。この結果を踏まえて、ヨガは有効な治療効果を提供する可能性があること。加えて、ヨガは、症状の緩和に加えて、めまいに対する個別対応ができるため、前庭リハビリよりも有利であること、またヨガは、全身のリラクゼーションを向上させるだけでなく、手頃で学びやすいという利点があるため、従来の前庭リハビリに代わる優れた選択肢となり得ると結論づけています。

ヨガがめまいリハビリに向いている理由の考察

動くことの恐怖を緩和する

動くとめまいが起こるために動くことへの恐怖心を持ってしまい、その結果、前庭機能が落ちてしまい、めまいが長引いたり、筋力が低下して転倒しやすくなり、さらに動くことへの恐怖心が増すという悪循環があるそうです。

ヨガは、身体的にバランス機能を向上させるだけでなく、呼吸や内観や今ここへの集中を通して、こうした恐怖心を和らげるという精神的なアプローチもできます。

固有感覚を向上させる

ヨガのシークエンスを考える際に、私はあらゆる関節を動かすことを大切にしていますが、実は平衡感覚と関節には密接な関係があります。関節には「関節受容器」と呼ばれるセンサーがあり、これが身体の位置や動き、バランス、姿勢の情報を脳に伝えます。この仕組みを「固有感覚(プロプリオセプション)」と呼び、これにより脳は空間における現在の体の姿勢や位置を把握し、バランスを保つための適切な指令を筋肉に送ります。

ちなみに、私のヨガクラスで大切にしていることのリストです。

  • 呼吸を意識しながら動く
  • 全身のストレッチ
  • あらゆる関節を動かす
  • ポーズの際に、目線を連動させる
  • 立位のポーズを通して丹田を意識する
  • 体の中心線を意識する。
  • コアラインの意識と強化
  • 足裏の意識(足裏三点のグラウンディング)
  • 体の内側の感覚に意識を向ける

Drishti(ドリシュティ)はサンスクリット語で「視線」や「見方」を意味し、ヨガのポーズや瞑想において特定の場所に意識的に視線を向けるテクニックです。これは、従来の前庭リハビリと重なります。

こうしてリスト化すると、特にめまいに対処するためにシークエンスを組んでいたわけではありませんが、改めて、あらゆる面でめまいのリハビリに向いていると思いました。

Aさんいわく、バランス検査の際に目を瞑ったら私の「丹田~呼吸を意識して~」の声が聞こえてきたそうです(笑)すると目を瞑っていても、以前のように揺れることがなかったとのこと。改めてヨガの力を感じたエピソードでした。