

ヨガのクラスで「死体のポーズ」「屍のポーズ」と呼ばれるシャヴァーサナを体験されたことはありますか?クラスの最後に行う仰向けのポーズで、ヨガに親しんでいる方には「いちばん気持ちよくて、安心できる時間」として親しまれているかもしれません。
しかし、このポーズの本来の意味は「ただ休むこと」ではありません。古代の教えによれば、このポーズは“死を模倣する”時間。自分という存在を手放し、魂が身体を抜け出すようなイメージの中で、朽ちていく身体を静かに見つめる——つまり、自らの「死」を疑似体験する場だったのです。
日常「死」をあえて意識することはないかもしれませんが、「死」を見つめることは「今ここにある命(生)」をより深く味わうための練習です。ラテン語の警句「メメント・モリ(memento mori)=死を忘れるな」にもあるように、死を意識することは、今を丁寧に生きるための大切な問いかけでもあります。
QOLとは? そして「Life」とは?
さて、ヨガは「QOL(クオリティ・オブ・ライフ)」を高める、とよく言われます。医療や福祉の現場でも、この言葉は頻繁に使われています。ですが、ここで少し立ち止まって考えてみたいのは、QOLの“L(ライフ)”とは一体何を意味しているのか?ということです。
“Life”には、少なくとも4つの異なる意味が含まれていると考えることができます:
- 生活(life as daily living):日々の暮らしが快適かどうか
- 命(life as vitality):体や心の元気があるかどうか
- 寿命(life span):どれくらい長く生きられるか
- 生きがい(life as meaning or purpose):自分らしく生きているか、意味を感じられているか
ヨガの実践がもたらすものは、このどれか一つに限られるものではなく、これらすべてに少しずつ関わっていると言えるかもしれません。
セラピーとしてのヨガと向き合う
ヨガセラピーという視点で考えるとき、私たちはこう問いかけることができます。
「あなたにとっての“ライフ”とは、何ですか?」
「ヨガがその“ライフ”に、どんなふうに役立つと思いますか?」
身体の痛みが和らぐこと、気持ちが落ち着くこと、眠れるようになること——
そうした変化の背後には、その人がどんなふうに生きていきたいかという深い希望や、向き合っている苦しみがあるかもしれません。
シャヴァーサナは、ただ静かに横たわる時間でありながら、自分の命と向き合い、“生きるとは何か”に気づく時間でもあります。その沈黙の中で、参加者が「今ここにいる自分」を丁寧に見つめることができたなら、それはQOL——人生の質を見直す、かけがえのないプロセスになるのではないでしょうか。
セラピストとして、私たちはすべてを導くことはできません。ただそばにいて、安全なヨガの時間を見守ることで、ヨガが持つ本来の静けさが、その人の“Life”に届くように、そっと寄り添っていけたらと思います。