“It’s not how far you go, it’s how you go far.”

「(大切なのは)どれだけポーズを深めるかではなく、どのように深めて行くかです。」

体が非常に硬い生徒さんの指導法を私の師Kat Grassauに、尋ねた際に返ってきた答えです。

膝の過伸展(反張膝)

先日、日本の有名ファッションモデルさんが美しくポーズをとるインスタグラムの彼女の膝に目がとまりました

彼女のとっていたポーズはダンサー(Dancer / Natarajasana)のポーズ。

上半身はとても美しいのですが、地面についている方の脚の膝が右下の写真のように完全に逆くの字の過伸展のNG状態。(写真は別の人です。)

一方、下の写真は私の友人のダンサーのポーズ。踵から膝、太ももが地面に対して垂直に力強く伸びています。

ダンサーのポーズ

きっと、前述のモデルさんは、生まれつきとても柔軟な方なのでしょう。脚を頭の後ろに組むポーズなど、アクロバットのようなポーズを決めている写真もいくつかありました。体が柔らかいので、一見、ヨガの上級者ように見えるのですが・・・。

柔軟な人に怪我が多いわけ

生まれつき体が柔らかい人は、体のアライメントが調っていなくても抵抗を感じることなく体を深く曲げ伸ばしできてしまうため、筋肉や靭帯や腱を引っ張り過ぎて怪我につながることが多いです。

ヨガのクラスで脚を180度に開いて床にべったりつけたり、弓のように体をそらせたりして、他の人たちから羨望の目を向けられていた人が、しばらく教室に姿を現さなくなったと思ったら、腰や股関節や膝関節を痛めていた、なんていうことが頻繁にあります。

また少なからぬヨガのインストラクターが年齢とともに体の故障で教えられなくなるか、完全にヨガのスタイルを見直して元々教えていたものとは、まったく違うヨガにたどり着いています。

ヨガは柔軟性を競うスポーツではない

よく、「私は体が堅いからヨガは向かない。」という言葉を日本でもアメリカでも耳にしますが、ヨガは柔軟性を競う競技でもサーカスや中国雑技団のような見世物でもありません。

柔軟性を高めることも、もちろん大事ですが、呼吸を深めること、ストレスを減らすこと、色々な部位の筋力を高めること、耐久力を高めること、骨を強くすること、関節と筋肉をバランスよく動かすこと、血流を高めること心を整えることなど、どれ一つとして健康面において、おろそかにできない目的と効果があります。

体が堅い人は堅い人なりに、できる範囲で体を動かすことによって、柔軟な人とまったく変わりなく十二分にヨガの恩恵を受けることができます。却ってほんの少し体を曲げ伸ばししただけでも、気持ちよさを感じることができるのでメリットを得られやすいかもしれません。

柔らかい人は、 つま先が頭につくとか、脚が180度に開くとかが、ヨガの目的ではないことを自分に言い聞かせて、あえて限界まで曲げ伸ばしせず、より筋肉を使って限界前でとどめましょう

私の師匠の言葉「(大切なのは)どれだけポーズを深めるかではなく、どのように深めて行くかです。」 に話を戻し、 前記のモデルさんにアドバイスをするなら、ダンサーのポーズを決める以前に、まずは最初にマットの上に立った時に意識的に膝をほんの少しだけ曲げて(膝のマイクロベンド)親指の付け根(拇指球)を床に押し付けるようにします。すると自然に膝のお皿の回りの筋肉が引き締められ、膝の過伸展を防ぐことができます。

ポーズは幾層もの積み上げからできている

土台ができてから始めて、次の動作に入ることです。一つのポーズは何層もの体のポジションと動作とコネクションという層(レイヤー)からできています。

たとえば三角のポーズであれば、上半身を横に倒す前に、両足をしっかりと踏み込み(1層目)両脚の筋肉を引き締め(2層目)、膝の皿を引き上げ(3層目)、背筋を伸ばし(4層目)、お腹を引き締めます(5層目)。引き締める感覚は、きつい分厚いタイツを引っ張りあげて穿く感じです。皮膚で筋肉をハグして、さらに筋肉で骨をハグして、などという言い方をすることもあります。

三角のポーズだけでなく、ほとんどの立位のポーズで、まずは以下の筋肉を意識的に使いましょう。太ももの後ろ、太ももの前、お尻、骨盤底筋、下腹、腹筋。そして、三角のポーズのように、脚をまっすぐ伸ばす場合は(戦士3、ダンサーなど)、膝の皿の周りの筋肉を引き締めましょう。

前述のモデルさんのように過伸展になってしまいがちな人は、膝をマイクロベンド(ほんの気持ち曲げます)することによって、膝周りの筋肉が作動します。

このように一層二層と正しく積み上げて行かないと、外観はゴージャスな手抜き工事のマンションと同じで、きっと何年か後には体のあちこちに不具合が出てくることでしょう。