のびは体と心をリセットするための自然なアプローチ

私たちが朝起きたときや長時間同じ姿勢で過ごした後に自然と行っている「のび」。この動作は、「パンディキュレーション(pandiculation)」と呼ばれており、実は大切な意味があります。パンディキュレーションは、ただ体を伸ばすのではなく、筋肉を一度収縮させてから緩める動作を特徴とするもので、この自然なプロセスによって筋肉の緊張がリセットされ、神経系も調整されてます。

目覚めた時に行う「のび」は、筋肉をグーッと伸ばしているのではなく、実は収縮させています。グーッとノビをした後には、必ずフーッと緩みますよね。これが正にパンディキュレーションです。パンディキュレーションは、哺乳類に限らず、鳥類、爬虫類や魚類を含む多くの動物に見られます。体が覚醒し、筋肉、神経系、自律神経のリセットするための重要なプロセスなのです。猫や犬を飼っている人は、彼らが眠りから覚めた時に、パンディキュレーションを行っているのを一日に何度も目にしているはずです。

臨床解剖学者、運動生理学者、神経筋療法や筋膜のエキスパートとして世界中で教鞭をとっているジョン・シャーキー氏は、パンディキュレーションは単なる筋肉の収縮ではなく、全身の筋膜ネットワークと調和しながら身体の内側で起こり全方向に拡張する動きであると述べています。

のびを観察してみた

確かに、のびをする瞬間に、自身の体を観察してみると、まずは「あくび」や「ため息」と同じ感じで「のびをしたい」という無意識の衝動が体の内側から自然発生し、のびをしている間は、グイーーンと体の内側全体に広がっている心地よい感覚があります。伸びきったところで呼吸が一時的に止まる間があることにも気づきます。そして、最後は自然にふーっとかはーっといった吐息が出て、緊張がリリースされ回復と解放の感覚が残ります。

のびで自律神経をととのえる

パンディキュレーションには、自律神経の調整効果があります。自律神経には交感神経(活動を促進する神経)と副交感神経(リラックスを促す神経)があり、パンディキュレーションによってこの2つがバランスを取り戻すよう促されます。具体的には、パンディキュレーションの動きが迷走神経を刺激し、副交感神経が優位に立つことで、体がリラックスモードに入りやすくなります。この状態では、心拍数が下がり、筋肉がほぐれ、体全体が緩む感覚を得ることができます。

加齢でのびも減る?

ところで、のびは無意識に体の内側から起こる衝動だと書きましたが、このような内側の体の感覚というのも加齢とともに鈍くなっていきます。お年寄りが暑さや喉の渇きを感じにくくなるのと同じです。ちなみに、私のヨガ教室の40代~80代の参加者さんたちに、最近、のびをした記憶がありますか?と聞いたところ、なんと12人中8名の方が「そう言えば、ないわ~。」ということでした。

ヨガでは意図しなくても、自然に筋肉の収縮とリリースが繰り返されますし、筋膜もあらゆる方向に動かそうとします。より意図的に積極的にパンディキュレーションを行っていくレッスンに取り入れることもできるでしょう。例えば、「猫と牛のポーズ(Cat-Cow)」では、しっかりと床を手で押しながら吸う息で背骨をゆっくりと丸め(Cat)、吐く息で力を抜いて背骨を緩やかに反らします。(Cow)Catを行う時には、のびをする時のように体の内側から広がるのびの感覚を大切にします。このような動作をあらゆるポーズで繰り返すことで、副交感神経が活性化され、自律神経がととのい、心も体もリラックスすることが期待されますし、老化予防にもなるでしょう。