以下は世界で最も権威のある科学雑誌”Nature”に2024年に発表された研究の翻訳要約です。アルツハイマー病リスクのある高齢女性における記憶トレーニングと比較したヨガの認知および免疫学的効果

アメリカ・UCLAの研究チームが行ったヨガと記憶力向上トレーニング(Memory Enhancement Training,MET)の効果を比較した研究です。認知症の一種であるアルツハイマー病のリスクは、加齢だけでなく血管系のリスク因子(高血圧、糖尿病、高コレステロールなど)とも深く関係しています。特に女性は、閉経後のホルモン変化によってリスクが高まることが知られています。

ヨガや瞑想は、ストレス軽減や血流促進、炎症抑制などの効果があることが報告されており、認知機能低下を防ぐ可能性があると考えられています。この研究では、ヨガと記憶力向上トレーニングのどちらがより効果的かを検証したものです。

研究の概要

対象者:50歳以上の女性79名(心血管系リスク因子+認知機能低下の自覚あり)

介入方法

≪ヨガグループ≫
週1回60分の対面クラス(12週間)
毎日12分の自宅での瞑想(*キルタン・クリヤ瞑想/下で別途説明)

≪記憶力向上トレーニング≫(*MET/下で別途説明)
週1回のグループクラス(12週間)
毎日12分の記憶トレーニング

研究チームは、認知機能テストや血液検査(遺伝子解析・炎症マーカー)を実施し、12週間・24週間後の変化を比較しました。

研究結果

▶ヨガのほうが主観的な認知機能の改善が大きかった
ヨガを行ったグループは、「物忘れの自覚」(主観的認知機能)が大幅に改善し、記憶力向上トレーニングよりも効果が高いことが確認されました。ヨガがストレス軽減やリラックス効果をもたらし、認知機能の不安を和らげた可能性があります。

ヨガは「老化関連の遺伝子発現」を変化させた

血液中の遺伝子解析では、ヨガを行ったグループで、老化に関連する遺伝子の発現が変化し、炎症を抑える方向に働いたことが確認されました。一方、記憶トレーニングを受けたグループでは、老化マーカー(身体の加齢や老化の進行度を客観的に評価するための指標)が増加していました。

▶ヨガが海馬の変化に関与
一部の参加者を対象に行われたMRI検査では、記憶を司る「海馬」の容積がヨガを行ったグループで増加傾向にありました。これは、ヨガが脳の可塑性を高める可能性を示唆しています。

ヨガの実践で期待できること

▶物忘れの不安を軽減(主観的認知機能の改善)
▶老化に関わる遺伝子の発現を抑える可能性
▶ストレスを軽減し、心身の健康を向上

今後、ヨガが認知症予防にどの程度効果があるのか、さらなる研究が必要ですが、脳の健康を守るための選択肢として、ヨガを取り入れてみる価値はありそうです。

ヨガには様々な流派がありますが、上記の研究で行われたヨガはクンダリーニヨガです。自宅で12分行われた瞑想はクンダリーニヨガの伝統的な瞑想法キルタン・クリヤ瞑想です。この瞑想法は声を出すマントラ、指の動き(ムドラ)、視覚化を組み合わせた瞑想です。

キルタン・クリヤ瞑想

この瞑想は、「Saa(サー)・Taa(ター)・Naa(ナー)・Maa(マー)」というマントラを声に出しながら、指の動きを組み合わせることで、脳の様々な領域を活性化させると考えられています。

「Saa」 → 誕生(Birth)
「Taa」 → 人生(Life)
「Naa」 → 死(Death)
「Maa」 → 再生(Rebirth)
この4つの音は、生命のサイクルを象徴していると言われています。

キルタン・クリヤの実践方法

この瞑想は、12分間を基本とし、以下のような手順で行います。

  1. マントラを声に出す(発声→ささやく→心の中で唱える)
    最初の2分:普通の声で「Saa・Taa・Naa・Maa」と発声
    次の2分:ささやくように小さな声で唱える
    次の4分:心の中で唱える(沈黙)
    次の2分:再びささやく
    最後の2分:普通の声で唱える
  2. 指の動き(ムドラ)を合わせる
    「Saa」 → 親指と人差し指を合わせる(知恵)
    「Taa」 → 親指と中指を合わせる(忍耐)
    「Naa」 → 親指と薬指を合わせる(活力)
    「Maa」 → 親指と小指を合わせる(直感)
    この指の動き(ムドラ)により、脳の運動野と感覚野を刺激すると考えられています。
  3. 視覚化をする
    瞑想中に、白い光が頭頂部から入り、額の中心(第3の目)から出るイメージを持つことで、集中力が高まり、脳へのポジティブな影響が増すとされています。

■科学的研究と効果

近年、UCLAやアルツハイマー研究機関などで、キルタン・クリヤ瞑想の研究が進められており、以下のような効果が報告されています。

▶認知機能向上
記憶力の改善(短期記憶・ワーキングメモリーが向上)
脳の可塑性(ニューロプラスティシティ)の向上
アルツハイマー病のリスク低減
脳の血流改善(特に前頭葉と海馬)

▶ストレス軽減
コルチゾール(ストレスホルモン)の減少
自律神経のバランス改善
リラックス効果による不安・抑うつの軽減

▶睡眠の質向上
深い睡眠が増え、熟睡しやすくなる
夜中に目覚める回数の減少

1日12分で簡単に実践でき、継続しやすいのでお薦めです。頭の中でグルグル思考が渦巻いて眠れない夜にベッドに横たわったまま指を動かしながら心の中でサタナマと唱えるだけでも、眠りに導いてくれます。

記憶力向上トレーニング

(MET, Memory Enhancement Training) は、UCLA長寿センターで開発された記憶改善プログラムで、認知機能を維持・向上させるための科学的に裏付けられたトレーニング法です。

言葉やイメージやストーリーを活用しながら、記憶を強化する方法を学ぶトレーニングです。