当協会でシニアヨガ講座を受講された桐田ひとみさんが、長野の老健施設の認知症カフェで行った誰でも無理なく行える椅子ヨガのレポートを寄せてくださいました。地元の新聞にも「地域の人ともに介護スタッフも参加して楽しさを共有し、和やかな雰囲気のセミナーとなった。」と掲載されました。

桐田ひとみ
前職は大手広告代理店傘下のWeb制作会社で、ディレクターとしてWebプロモーションを多数手がける。実父との死別反応から発症した双極性障害によって、7年間の療養生活を送った経験あり。あらゆる治療を試す中でヨガに出会い、練習を始めてわずか3ヶ月で完治。通院・服薬ともに終了し現在に至る。

【ホームページ】 AMATERU YOGA

まずヨガと出会ったきっかけを教えていただけますか?

生まれて始めて参加したのはホットヨガでしたが、今やっているような常温でのヨガを初めて体験したのは6年前です。常温のクラスは、エクササイズの延長線上にあるホットヨガよりも、本格的でストイックなイメージがあり怖かったのですが、病気のリハビリのために始めたホットである程度の体力が付き、ポーズもとれるようになってきていたので、一回くらい行ってみようか…という腕試し感覚だったように思います。

自分の心身と向き合うことを学ぶヨガ

しかし、初めて参加した常温クラスは、呼吸やひとつひとつのポーズの誘導が、今まで経験してたホットとは全然別物で、自分の心や身体とどう向き合うか、ということだけが繰り返し伝えられるものでした。

その誘導にあわせて身体を動かしていくうちに、クラス前に感じていた「ポーズとれるかなあ」なんて不安はどうでもよくなってしまい、代わりに「先生を通じた世界との一体感」「強烈な自己肯定感」がふつふつと湧き上がってきたのです。身体を動かしながら、心に訴えかけられるようなクラスを体験したのは、それが初めてのことでした。

それからは、常温メインに通うようになり、心身の状態が著しく良くなったことから、「こんなすごい効果のあることをもっとたくさんの人に伝えなければ」と決心し、1年間の練習を経た翌年に講師資格を取得し、現在に至ります。

講師が自分の体と心とどう向き合うかを繰り返し伝えていたとのことですが、それは例えば、どんな言葉でしたか?何か心に残っている言葉はありますか?

完全に文言を覚えているわけではないのですが「講師にではなく、自分自身の心身に挨拶する」「手のひらにヨガマットの素材のツブツブひとつひとつを感じられるくらい丁寧に触れる」「今までの自分の人生で一番伸びる背骨を感じる」…といったニュアンスの誘導でした。今思えばマインドフルな感覚を引き出す際に用いる言葉がけだったのだとわかりますが、当時の自分には未知の感覚の領域でしたので、一気に引き込まれました。

いつ頃からヨガインストラクターとして働き始めましたか?

2016年に200時間の講師養成トレーニングを受け、卒業直前から地域のボランティア協会に登録し、副業としてひきこもりの方が通う通所施設のボランティアをはじめたことがきっかけで、その後専業になりました。

どんなヨガを教えていらっしゃいますか?

ハタヨガをベースとして、リストラティブや陰ヨガなどの要素も取り入れながら、体力や柔軟性に自信のない方でも無理なく取り組めるやさしいヨガのクラスを行っています。

基本はどんな方でも参加いただけますが、特にかつての自分のように、病気や介護などで社会と接点が持ちにくくなってしまった方が、自信を回復できるような言葉がけ、ポーズのバリエーションの提案に重点をおいています。

ヨガの時間を通して悩みや苦しみとの付き合い方に気づく

自分にも生徒さんにもさまざまなライフイベントがあり、置かれている境遇も様々なので、ヨガの時間を通して、現在抱えている悩みや苦しみと、どう付き合うことで、心身の状態を良くしていけるのかを、皆で一緒に探求できる場作りをしています。

毎回、ざまざまなお悩みを抱えた方がいらっしゃいますが「ヨガの時間を通して自分自身の中に既に答えがあることに気づけた。これからは○○していきたい」といったご報告をいただくと、とても嬉しく印象に残ります。

昨今、多くのシニアヨガ認定スタジオができてきましたが、日本ヨガメディカル協会のシニアヨガを選択された理由は特にありますか?そこでの学びの中で心に残ることはありますか?

自身の経験から、加齢や病気などで運動を諦めてしまっているような方にこそヨガが必要で、効果も絶大だと感じておりましたので、そういった方にも伝わるようなヨガの手法を学んでいく中で、メディカルヨガの本と出会い、ヨガメディカル協会の講座にも興味を持ちました。

シニアのフィットネスレベルは一律ではない

講座の中では「シニアヨガの対象は年齢でなく、フィットネスレベルで決まる」という先生の言葉が最も印象に残っています。

つい「シニア=高齢者」とラベリングしてしまいたくなりますが、高齢者だけでなく、ケガや精神疾患のある方など、「頭の中のイメージと実際の動きに乖離が起きやすい方にヨガを伝える手法」という一段高い目線から学ぶことができました。

具体的には、椅子を使ったアーサナ、座布団やタオルといった身近な道具を使った軽減法、あまり動けない方でも自己肯定感を得られる誘導など、高齢者の方だけではなく、自分の普段開催しているクラスにもすぐに取り入れられるような方法が沢山あったので、一過性の知識に終わらず、定着を図れたのが良かったです。

今回「すずカフェ」で教えられて、一番大変だったことは、どんなことですか(あれば)?最も強く感じたことは、どんなことですか?

事前打ち合わせの時間がほとんどとれなかったため、椅子の形状・椅子周辺で確保できるスペース・参加者の運動レベル、を考慮してすべて最低限に抑えた想定でシークエンスを組む必要があったことです。

例えば、肘置きがあったり、隣の方との間隔が狭すぎると、椅子を使って足を開くポーズはできませんし、参加者の運動レベルによっては、椅子の向きを変えたり、座面側に手をつくポーズを入れたりすることが難しくなります。

今回は、椅子の背もたれ側だけを使うようにポーズの強度を下げてアレンジしたり、参加者の方が椅子の向きを変えなくて済むよう、私が会場の前側・後ろ側に臨機応変に動くなどの対応をしました。

テキストで紹介されているポーズから、更に強度を下げたバリエーションを作るのは、ネットなどを調べてもほぼ事例がなく、1から考えるのにかなり時間がかかりましたが、実際の現場で案外動ける人が多かった場合も、強度を上げる(通常のポーズに戻す)のは簡単なので、準備を入念にしておいてよかったと思いました。

今後の展望を教えてください。

まずは、活動のベースであるアマテルヨガの生徒さんとともに「心身のよい状態を作る手段」を、ヨガ以外の分野からも柔軟に取り入れつつ、生涯に渡って学びを深めていきたいと思っています。

また、今回のように病院や老健施設、学校などの外部との連携などを含め、ヨガが人生のさまざまな局面でしんどい方の駆け込み寺的な存在になれるよう、地域に根ざした啓蒙活動を広げていこうと考えています。


文責:ホーバン村松由美子