≪編集室より≫先日、協会の認定ヨガセラピストになられた看護師の金藤祥子さんが院内のナース・ステーションでの同僚向けに1か月にわたって行われたヨガ実施事例レポートです。このレポートでは、参加された看護師の皆さんが、忙しい合間を縫っての一日十分のヨガセラピーを通して、少しずつ変わっていく様子が、まるで物語を読むようで、ヨガセラピーとヨガセラピストの力を改めて感じることができました。また、「ケアする人のケア」の大切さを実感したレポートでした。

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1.テーマ

身体的・精神的疲労とストレスを抱える看護師へヨガセラピーを伝え体感してもらう

2.はじめに

ストレスの原因となる要因は、仕事、家庭、地域などに存在している。心の健康づくりは、自分自身がストレスに気づき、これに対処するセルフケアの必要性を認識する事が重要である。

メンタルヘルスについて、看護職はハイリスクグループと言われているが、現場ではまだまだ十分なケアができていないのが実情である。職業性ストレスの職種差を検討した研究において、看護師は他の職種に比べて量的労働負荷(仕事量)や労働負荷の変動(仕事量の変動)が大きいと言われている。さらに、仕事のコントロールに関しては、他の専門技術職や事務職に比べて低いという報告がある。職業性ストレスにおいては、仕事量が多く、仕事のコントロールが低い組み合わせの場合にストレスが高まり、疾患発生の危険性が高くなるとされている。実際、厚生労働省が発表している「脳、心臓疾患と精神障害の労災補償状況(平成26年度結果)」によると看護職を含む医療、福祉は精神障害の労災請求件数の多い職種(大分類)第2位を占めている。さらに(中分類)では保健師、助産師、看護師は過去5年間を通してワースト10に入っている。

人の命に関わる職業であるため、もちろんやりがいは大きいが同時に高い緊張感が強いられる。毎日誰かの為に頑張っていて、心や身体が疲弊していても気がつかず、体調を崩す看護師を多く見てきた。患者さんの心に寄り添い良い看護を提供する為には、看護師自身がストレスを受け止め、乗り越え、跳ね返して成長する力が求められると考えている。

メディカルヨガ協会のホームページ“医療を支えるヨガセラピー目指して”を目にし、講座を受講して、協会の目的や活動内容に深く共感する事ができた。そして、倫理を学ぶ事で「ヨガセラピーこそ看護師に必要な健康管理法だ」と確信した。

ヨガセラピーが必要な人に歩み寄ることができるよう、ストレスのサインに気づいたら逃げるのではなくまずは、自分自身を見つめて向き合う事の大切さを伝えていきたいと考え、看護師にヨガクラスを実施した。その内容を振り返り、考察して学びを報告する。 

3. 相手の特徴 

20~50代 看護師(女性) 36名
日勤帯連日 15人前後で実施

4. ヨガクラスの計画

日時: 月曜~金曜(祝日は除く)  13:50~14:00  令和2年10月~11月
場所: 病棟のナースステーションでパイプ椅子を使用
人数: 15人前後 

※1日の勤務時間の中で日勤帯看護師が集合する昼のカンファレンスの中で業務に支障が無いよう、10分間を連日1ヶ月間実施。

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5. 実施

日頃から行っているソーシャルディスタンスで密を避け、窓を開けた状態で感染対策に留意して行った

≪倫理的配慮≫

  1. 参加者は自由意志による
  2. 途中でやめる事も可能
  3. 無理をしない、いつでも参加中止できる
  4. アンケートは無記名式  

目的≫

  • 自分の呼吸を観察する
  • 自分の内側を深く観察して、自分の心と身体に向き合う
  • 自分の呼吸に意識を向けて思考を休ませ、「いまここ」に意識を向ける。
  • 疲れやイライラする気持ちを落ち着かせ、日頃から頑張っている脳をリラックスさせる。
  • 深い呼吸で自律神経のバランスを整えていく。
  • 凝りや痛み、浮腫みを緩和・改善

事前の聞き取りから「首」「肩」「腰」の痛みと「下肢の浮腫み」に悩む看護師が多かった。患者さんへの対応、コンピューターのディスプレイなどの表示機器を使用した作業で一日のほとんどの時間を前傾姿勢で過ごすため、背中が丸くなり首、肩、腰に負担がかかる。また立位で過ごす時間が長く足の浮腫みも必発する。筋肉の緊張によって血流が滞り疲労が蓄積しやすくなるため筋肉をほぐすストレッチを行う。

時間と場所に制限があったため、考慮した結果下記内容を実施することにした。

①自分の呼吸を観察→腹式呼吸(2分)

背筋を伸ばし、目を閉じて自分の呼吸を観察してみる。呼吸が浅いと感じたら少しずつ深い呼吸へ。

※は動きに応じて実施した誘導や声掛け

※鼻呼吸でも口呼吸でも良い。心地良い方を選ぶ。余裕があればおへその下に空気を貯めていくイメージでお腹を膨らませて、次にお腹を凹ませながら体の中の悪いものを全て出し切るように息を吐き出しましょう。深呼吸を繰り返して雑念がわいてきても大丈夫です。その時は自分の呼吸に意識を戻していきましょう。深呼吸を続ける事で全身の緊張がじわじわほどけていく感覚を味わってみましょう。深呼吸が難しい場合ため息から始めてみましょう。

② 首の左右・前後伸ばし

背もたれから背中を離し背筋を伸ばす

<首の左右を伸ばす>右手を頭の上から左側に回し、左側頭部に手をそえ息を吸って吐く息と同時に頭を右側に傾ける。そのまま2呼吸したら吸気で正面に戻す。(左も同様に行う)

※手で頭を引っ張ると首を痛めやすいので手は添えておくだけで大丈夫です。

<首の後ろ側を伸ばす>後頭部で両手を組み息を吸って、呼気と同時に軽く押しながら顎を胸につけるように頭を下げる。そのまま2呼吸し息を吐ききったら両手を頭から離して吸気でゆっくりと顎を戻す。

※前かがみになりすぎないようにしましょう。首の後ろ側や背中の伸びを感じましょう。

<首の前側を伸ばす>両手を重ねて鎖骨あたりに軽く添える。息を吸って顔を正面に向けたら息を吐きながら顎をゆっくり持ち上げ頭の重みを利用しながら後ろに倒す。そのまま2呼吸し息を吐ききったら吸気で頭を起こす。

※頭を倒しすぎると頸椎を痛めてしまうので注意しましょう。

③ 肩周りの筋肉をほぐす

両腕を曲げ、指先を肩に置く。肘で円を描くようにして腕を後ろへ大きく回す。ゆっくり大きく5回回す。反対回しも5回行う。

※息を止めないで自分のペースで呼吸してみましょう。肩甲骨を大きく動かすイメージで、肘を大きく動かしてみましょう。肩が少しずつ温まってくるのを感じるでしょうか?

④ 両脇を伸ばす(左右3呼吸キープ)

左手で椅子の座面後方を掴み右手で左耳を覆うように頭を支え、息を吸いながら背筋を伸ばし、息を吐きながら左側に体を傾ける。そのままキープして3呼吸。3呼吸目息を吐ききったら息を吸いながら体を起こし真ん中に戻る。

※右手の位置は自由に選んで良いです。体は痛いところまで傾けず気持ち良いところを探してみましょう。余裕があれば右胸を開くように意識してみると呼吸しやすくなってきます。肋骨にたくさん空気を取り込んでみましょう。痛い、苦しいと感じたらお休みしても大丈夫です。無理をせず気持ちよく行いましょう。

<左体側・脇バージョン>右手で椅子の座面を掴み左手で右耳を覆うように頭を支え、息を吸いながら背筋を伸ばし、息を吐きながら右側に体を傾ける。そのままキープして3呼吸。3呼吸目息を吐ききったら息を吸いながら体を起こし真ん中に戻る。

※左手の位置は自由に選んで良いです。体は痛いところまで傾けず気持ち良いところを探してみましょう。余裕があれば左胸を開くように意識してみると呼吸しやすくなってきます。肋骨にたくさん空気を取り込んでみましょう。右と左比べてどうでしょうか?

⑤ 上半身を捻る(左右3呼吸キープ)

椅子座面半分から前側に座り背もたれから背中を離した状態で行う

<右側に捻るバージョン>右手を椅子の背もたれに添え息を吸いながら背筋を伸ばし息を吐きながら上半身を右側に捻りながら左前腕を右大腿部外側に添えるようにして左肩の力を抜く。そのままキープして3呼吸。3呼吸目息を吐ききったら吸気とともに上半身を正面に戻し両肩の力を抜く。

※右手を背もたれに添えるのが難しければ腰に添えても良いです。痛いところまで捻らず気持ちの良い所を探して呼吸を続けてみましょう。腹筋、背筋、内臓の動きはどうでしょうか?。

<左側に捻るバージョン>左手を椅子の背もたれに添え吸気で背筋を伸ばし呼気とともに上半身を左側に捻りながら右前腕を左大腿外側に添えるようにして右肩の力を抜く。そのままキープして3呼吸。3呼吸目息を吐ききったら吸気とともに上半身を正面に戻し両肩の力を抜く。

※手の位置は自分の好きなところをえらんでみましょう。無理せず気持ち良ければそれでOKです。

呼吸は止まっていませんか?

⑥ 脚の付け根を緩める(左右3セットずつ)

<右脚バージョン>右大腿裏に両手を添え、吸気で膝を胸に引き寄せる。呼気で力を抜いてゆっくり脚を床に着く。同じ動きを3回繰り返す。

※脚は無理して上げなくて良いですよ。両手は大腿じゃなくても添えやすい所を探してみましょう。大腿、ふくらはぎの筋肉や股関節の動きを確認し、少しずつほぐして血流を促してあげましょう。

<左脚バージョン>左大腿裏に両手を添え、吸気で膝を胸に引き寄せる。呼気で力を抜いてゆっくり脚を床に着く。同じ動きを3回繰り返す。

※脚を持ち上げるのが難しければ上半身を少し前に倒してみましょう。左右の脚の動きや感覚を比べてどうでしょうか?

⑦背中や胸を丸めて開く

椅子座面半分から前側に座り背もたれから背中を離した状態で行う。両手を両大腿の上に置き、吸気で手を横に広げながら胸を開いて斜め上を見る。呼気で背中を丸めてお腹を覗き込むようにして両手を大腿の上に添える。同じ動きを3回繰り返す。

※手は大腿の上に添えたままでも良いですよ、胸骨、背骨、肩甲骨の動きを意識して行ってみましょう。呼吸と身体を連動させリズムを感じてみましょう。

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6. 結果

≪主観的≫アンケート結果

  • 気持ちいい、リラックスできた。
  • 毎日ヨガの時間が楽しみになった。
  • 腰や肩の痛みや重さ、目の疲れが軽減した。
  • 便秘が改善した(排ガスが増えた)。
  • 血圧が下がった。
  •  午前中の疲れが取れてリセットした状態で午後集中して仕事ができた。
  • 仕事中の自分の呼吸状態や姿勢を意識するようになり、深呼吸して姿勢を伸ばすと気持ちが前向きになった。
  • はじめてしばらくは色々考えてしまっていたが、慣れてきたら集中できるようになった。
  • 腹式呼吸は難しいけど、横隔膜や肺、内臓の動きも意識できたのは初めて。
  • 毎日患者さんの事を観察できるのに、自分自身の事を観察できていなかった。深呼吸することで「命」の大切さを実感して、自分や周囲の人に感謝し穏やかに過ごせるようになった。
  •  「こんなにかたいの」と自分の身体のかたさにびっくりした。身がかたいから心の余裕がなかったのではないかと感じた。心と体はつながっている事を納得した。
  • イライラしたり焦ったりしている時など「今の自分の気持ち」に向き合って一呼吸することができるようになった。
  • ヨガ教室では無理しちゃうけどセラピーは無理しないでできて心地よい。
  • ヨガは体がかたいとできない難しいものだと勝手にイメージしていた。
  • ヨガの動きは普段看護の仕事の中で、様々な看護技術やケア、日常のリハビリに取り入れてる動きと共通する所があると感じた。
  • 自分にもヨガができたと自信がついた。椅子に座った状態でできるヨガなら患者さんでも実施できてADLやQOLが向上しそう。
  • 血圧が高い患者さんに深呼吸を促すようにしている。
  • 便秘傾向にある患者さんにすぐに薬を使うのではなく、深呼吸、腹部マッサージ、上半身を捻るなど実体験をもとにアドバイスができるようになった。
  • 呼吸困難感があり酸素投与中の患者さんに胸を広げたり、深呼吸、呼吸が楽になる姿勢を指導できた。

 ≪客観的≫

  • 楽しみながらリラックスできている。
  • 「背中丸まっているよー」「落ち着いて深呼吸しよう」「今日も頑張ったね」等の声が多く聞かれるようになった。看護師間で声を掛け合い、患者さんだけではなく自分自身や一緒に働く仲間の観察も行えている。
  •  「Aさん手術後3日間便が出てないって」「じゃー深呼吸と腹部マッサージ指導しようか、上半身捻りは難しそうだよね」というようにすぐに薬に頼るのではなく患者さんへ個別性のケアを相談しながら関わる機会が多くなった。
  • 仕事への集中力が増したのか私語が減少した。
  •  インシデントやアクシデントの発生件数が減った(直接関連しているかは不明だがヨガを開始してから報告書の提出件数が少ない)。
  •  ヨガセラピーの効果を実感してもらえたのか「ずっと続けたい」という意見が多い。

7.実施中の様子や反応 

最初は羞恥心や緊張から動きも呼吸も控えめだった印象。ナースステーションでの実施だった為、閉鎖的で心電図モニターアラームやナースコールの音で動きを中断しなければならず、業務に支障が出るのではないかと不安で、継続していいのか不安だった。しかし、ヨガセラピーに興味・関心を持ち、継続したいという看護師が多くみんなで相談してモニター番、ナースコール番を配置する事で少しでも集中できる環境を作り実施できた。参加できない看護師もいたが交代制とすることで1週間に2.3回は体験できるようにした。10分という短い時間だが1ヶ月継続する事で心と身体の変化を感じてもらうことができた。また、ヨガの動きは自分達が看護の仕事の中で、看護技術やケア、リハビリに取り入れてる動きと共通している事に気がついてもらうことができた。貴重で有意義な時間となったのではないかと思う。

8.考察 

日本ヨガメディカル協会では「ヨガは自分自身の呼吸や体の動きに意識を向ける事を通じ、心を落ち着かせる練習である」と定義している。

ヨガに対して様々なイメージを抱え、興味があっても始める事ができない看護師も多かった。毎日同じ内容を実施・継続する事で、心と身体の状態を観察して様々な気づきを得てもらうことができた。人の生命に向き合う職業だからこそ、スタッフ自身も普段からヨガを実施する事でストレスの軽減になり、ゆとりが生まれると患者さんや家族の生命を尊重する態度に繋がり、医療ミスの防止やケアやサポート等、看護の質の向上に繋がると感じている。

また、ヨガセラピーを体験し効果を得たことで「患者さんにもできそう」とアドバイスや指導を行い、早速実施している患者さんが数名おり効果を体感している。(もうひとつのレポートで報告する)

継続できることが大事で、10分という短い時間でも自分のためだけに使う贅沢で有意義な時間からたくさんの気づきや学びがあったのではないかと考える。

9.おわりに

懸命にケアに当たる看護師は、患者さんにとっては共に病気と戦う存在だと感じている。そのため、私達看護師が心身共に健康で過ごさなければ、患者さんの看護はできず、医療を支える事が出来ない。今回実施した事例の反応や結果から看護師にヨガセラピーは必要だと再確認できた。

ヨガに触れていく人には敷居が低く、一歩でまたげるような入り口を案内し、今回の学びを活かして必要としている人にヨガセラピーが歩み寄るよう、看護師の視点からヨガセラピストの役割を実行していきたいと考えている。