その首の痛みは本当に好転反応?
ヨガに関するブログを読んでいて、気になる文章がありました。「ヨガをして首が痛くなったら、それは好転反応です。」と。
ヘッドスタンドやショルダースタンド
現在、アメリカのベテランのヨガインストラクターの間では、一般の人向けのヨガのクラスではヘッドスタンド(頭立ちのポーズ)やショルダースタンド(肩立ちのポーズ)は教えないという人が増えています。インストラクターが一人一人に目の届かないクラスで、これらのポーズを教えるのは、あまりに危険だからです。
私の友人でヨガインストラクターもしているベテラン・ヨギーニが、あるヨガワークショップで3分のヘッドスタンドをさせられて(彼女にはしない選択しも、もちろんあったわけですが、)、それ以来、頚椎(首の骨)を痛めて、しばらくヨガができなかったと話していたのを聞いてから、私も頭立ちのポーズは1分以内にとどめるようにしています。また、 頭立ちのポーズ をする際には、前腕でしっかりと支えて頭へのプレッシャーは、ほぼゼロの状態でしています。
頭立ちのポーズ 、鋤のポーズ、魚のポーズで怪我をしたという話は、本当によく耳にします。
「ヨガの怪我をしやすい部位」で書きましたが、引用します。
40% 腰 症状は椎間板ヘルニア、坐骨神経痛。
20% 膝 軟骨断裂
15% 肩 【原因のポーズ】アームバランス
10% 首 【原因のポーズ】頭立ちのポーズ(Head stand)、肩立ちのポーズ(Shoulder stand)
と、腰に比べれば、はるかに少ないですが、それでもより深刻な怪我になってしまうのは首の方が多いのではないでしょうか。ネットでも、ヘッドスタンドやショルダースタンドをしていて救急車で運ばれたとか、翌日から痺れが出て、二度とヨガができないほど、などという書き込みを読んだことがあります。
頚椎(首の骨)は体重を支えるためにできていない
頚椎(首の骨)の中には脳からつながっている神経(頚髄)があります。老化によって頚髄が圧迫されやすくなり、ちょっと転んだだけでも、麻痺が起こることがあるそうですが、私の母が正にそうで、お正月に坂道で顎から転んで腕から手の麻痺が長く続き、次に転んだら、下半身不随になるよと医者に言われて最終的に頚椎の手術をしました。(無事、回復しました。)
首は、肩と同じで可動域の大きい場所です。可動域が大きいということは、イコール不安定な場所ということです。体の体重を支えるためにはデザインされていません。
ポーズをしないという賢い選択
ヨガのクラスの後に首が痛くなったとしたら、まずは好転反応?とポジティブに思うよりは、首を痛めたかも、と思っておいた方が間違いないと思います。ヨガは体には確かにいいですが、くれぐれも注意して行うことが必要です。インストラクターに何と思われようと、ポーズによっては、やらないという賢い選択肢も持っておいた方がいいです。
万が一、何か聞かれたりしたら、たとえば、「今、首に怪我をしているので、このポーズはやらないようにしています。」とはっきりと言っても全然構いません。
逆転のポーズは、自律神経のバランスを整えるとか、リンパの流れをよくするとか、血圧を下げるとか内臓の働きを高める効果があると言われていますが、特に40代を過ぎてヨガを始める場合は、くれぐれも注意してください。
頭立ちのポーズと肩立ちのポーズ
雑誌ヨガ・ジャーナルの”Your guide to a pain-free practice”(痛みのない練習のためのガイド)という号の序章のベテラン・シニア・インストラクターーたちの会話抄録が非常に興味深かったです。一人の人は「私は生徒にショルダースタンドは、1年半から2年、ヘッドスタンドは3年は教えない。またクラスに入ってきた生徒の姿勢を見てヘッドスタンドやショルダースタンドをするべきかどうか決める。」と言っています。また別のインストラクターは、「ヘッドスタンドやショルダースタンドは、利点も多くあるが、そのリスクを考えると、誰もがヘッドスタンドやショルダースタンドをするべきだとも思わないし、誰もするべきではないとも思わない。」と言っています。
首に負担の大きいポーズ
頭は一般成人で5キロです。それを細い一本の首が支えるわけで、首への負担は姿勢の良い人であっても、かなりあります。以下はテキスト・ネック(Text Neck)と言われている姿勢です。上の画像で示したように、首の前傾可動域の角度は焼く40度ですが、60度というのは、首の骨(頚椎)だけでなく胸椎(胸の部分の脊椎)の角度も足してということです。猫背を越えています。
当然、首が反るポーズでも負荷が高まります。すきのポーズ(首の前傾)、魚のポーズ(首の後傾)、三角のポーズ(首の横や斜めへの傾きになりがち。上を向かずに目線は足元に落としたままだと負担が減ります。)、またコブラやアッパードッグやラクダのポーズでも首を反らしすぎないようにしましょう。
体が反るタイプのポーズでは、(たとえばラクダのポーズ、戦士のポーズ1など)顎が上がり過ぎて首が後ろに反ってそってしまう傾向にありますので、顎を少し引き気味にしましょう。顎を引くと言っても単に下を向くのではなく、①首の一番上の部分を顎にそって後ろに向かって斜め上に引き上げてから②首を天井に向けて伸ばします。
イメージとしては、オートバイのヘルメットのシールドをおろす方向性の意識も役に立ちます。
顎を両手の人差し指と中指の裏で支えるようにして、斜め上に引いてから、首を伸ばしてみてください。首の正しい位置がつかめます。
肩ループと頭ループ
この図はアヌサラ・ヨガの「肩のループ」と「頭のループ」という考え方です。肩ループ(黄色)は、上あごの中心から始まり、首の後ろを通り、肩甲骨の底辺を通り、体の前面へ、そして再び上あごの中心を通ります。
この反対になると猫背です。
肩ループによって、肩甲骨が下がり、肩甲骨の底辺は胸に向かって入り込み、胸が開きます。
一方、頭ループ(赤)は、上あごの中心から始まり、頭の後ろから頭のてっぺんを通り、顔の前面を下がって、再び上あごの中心を通ります。
そして、この肩ループと頭ループは、歯車のように噛み合い動きます。
図で分かるように頭の後ろの肩ループと頭ループは、噴水のように分かれて行きますが、これによって、首を後ろにそっても、頚椎(首の骨の)後ろ側に十分な隙間を保つことができます。
このループを感じやすいのは、ラクダのポーズや戦士のポーズ2です。試してみてください。
村松ホーバン由美子:日本ヨガメディカル協会公認講師&WEB編集責任者
E-RYT500、C-IAYT(国際ヨガセラピスト協会認定セラピスト)、介護予防指導士、米国シニアヨガ指導士、ムーブメントセラピー指導者、ORIGINAL STRENGHTH認定プロフェッショナル、日英通訳翻訳。埼玉県在住。
【担当講座】「解剖学② ヨガセラピー✖筋膜」「ヨガ✖ポリヴェーガル理論✖自律神経」「様々なポーズの軽減法」