筋膜の役割

この数年、筋膜(Fascia)の研究が進んでいます。昔は、筋膜は何の役目もしていないと思われていましたが、最近では筋膜は、結合組織として筋肉や臓器を包み込み支えるとともに体の滑らかな動きにも非常に重要な役割を担い、さらに血管、神経終末、リンパが筋膜の中を走り、体液の循環や痛みや圧力感覚、温度感覚や位置感覚などの伝達にも関わっていることがわかってきました。

鶏肉の皮と肉の間にある筋膜

筋膜を体から剥がすと、 つま先から頭のてっぺんまで、まるで人間の一枚の抜け殻のようになるそうです。人間の身体には60兆個の細胞と、およそ600個の筋肉がああり、それらを包み込み、まとめているのが筋膜で、それは、まるで一枚のレオタードやウェットスーツを着ているようなイメージです。筋膜研究で有名なアメリカのトーマス・マイヤー氏は、筋筋膜(筋膜を包む筋膜)はミカンの袋のようなもので、果汁がひとつひとつが袋に入っており、さらにその中の果肉も小さな袋にはいっているのと似ていると説明しています。

筋膜リリースとは

最近、筋膜リリースという言葉をよく聞くようになりました。筋膜は、体全体を包み込む薄い結合組織の層の集合体と言えますが、筋膜リリースとは、悪い姿勢、運動不足、ストレスによる緊張、外傷などが原因で癒着してしまった筋膜の層を徒手やボールやフォームローラーなどのツールや運動、ストレッチ、マッサージによって滑走しやすく(滑りやすく)してあげることです。

痛みのトリガーポイント

痛みを引き起こしている場所が、実際に痛みを感じている場所とは違う場合が、えてしてあります。前述したように、筋膜は全身をつなげているため、一部がひきつれたことにより他の場所が代償を払って痛みとなっている場合があります。本当の原因である場所のことをトリガーポイントと言います。

たとえば私の場合、長い間、右の腰痛があり、マッサージをしても整体に行っても、針に行っても、そこだけは良くならず、半ばあきらめていたのですが、ロルファー(筋膜マッサージの専門家)に、本当の原因は中殿筋かもしれないと言われて、横向きになったり仰向けになって中殿筋にテニスボールを当ててでマッサージをしたところ、数日で何年もあった腰痛が消失しました。ボールを当てて自重を乗せた時に、いた気持ちいい場所を見つけて、自重を利用して、あらゆる方向にマッサージしましょう。ちなみに、中殿筋の位置はお尻の横のほうで、「右へ、ならえ」で腰に手を置いたところから5~10㎝ほど下です。

ヨガと筋膜リリースの相乗効果

  1. 柔軟性の向上:筋膜リリースによって筋肉と筋膜の緊張が緩和されることで、ヨガのポーズをより深く、効果的に行うことができます。
  2. 痛みの軽減:筋膜の硬直が原因で生じる痛みを軽減し、ヨガの練習を快適に続けられるようになります。
  3. 血行促進:筋膜リリースは血流を改善し、体全体の循環を良くするため、ヨガのポーズ中に酸素や栄養が筋肉に行き渡りやすくなります。
  4. 姿勢の改善:筋膜の緊張が解放されることで、自然な姿勢を取り戻しやすくなり、ヨガのポーズも正しく行えるようになります。

ヨガだけやっていれば筋膜は健康な状態に保てるのか?

前述したように、筋膜のある層が一旦、癒着してしてしまった場合、それをストレッチだけでリリースするのは難しいです。たとえば、出がけに今日つけようと思っていた細いネックレスがこんがらがってしまった状態を想像してみてください。焦って引っ張れば引っ張るほど、結び目は固くなり決してほどけることはありません。

同様に筋膜の癒着もヨガで伸ばしたり縮めたりするだけでは、なかなかリリースされるものではありません。ヨガを行う前、またはヨガを行いながら、硬いと感じる部位、凝りがあると感じる部位の近くをテニスボールやリリース専用のゴムボールやフォームローラーなどで、ほぐしてあげることをお勧めします。

筋膜ラインを意識してヨガを行う

筋膜ラインは、体のさまざまな部位を結びつける筋膜の連続した経路を指します。ここの概念は、解剖学およびボディワークの専門家であるアメリカのトーマス・マイヤーズ(Thomas Myers)氏によって「アナトミー・トレインズ」として体系化されました。

たとえば、前屈がしにくいと感じた時のヨガの具体的なアプローチの一例を紹介します。足裏から頭部まで、体の後面を縦に走る筋膜の連続性を示すラインを浅層バックラインと呼びます。

最もお薦めできないのが、いきなり床に座って脚を伸ばして前屈することです。多くの人はこれで腰をやられます。実際に座位前屈はヨガのポーズと怪我の統計では怪我の多いポーズとなっています。浅層バックラインには足裏、ふくらはぎ、太もも、腰背部、脊椎、頭部が含まれますので、まずは各部位をストレッチしていきます。

1. 足裏の筋膜リリース

足裏から始まる浅層バックラインをほぐすことは、前屈を深めるのに効果的です。

テニスボールを使用:床にテニスボールを置き、その上に足を乗せます。足裏全体をボールで転がし、特に痛みや硬さを感じる箇所を重点的にほぐします。(テニスボールは転がりやすいので、軍手やゴム手袋に入れて使うといいです。)

2. ふくらはぎのストレッチ

ふくらはぎの柔軟性を高めることで、浅層バックライン全体が緩みやすくなります。ダウンドッグ(下向きの犬のポーズ):手と足を床につけて、お尻を天井に向けて持ち上げます。かかとを床に近づけるようにしながら、ふくらはぎをしっかりと伸ばします。

3. ハムストリングスのストレッチ

ハムストリングス(太ももの裏側)の柔軟性も、前屈の深さに大きく影響します。

立位前屈:足を肩幅に開いて立ち、ゆっくりと上体を前に倒します。膝は軽く曲げても構いませんので、徐々に伸ばしていきます。立位前屈は骨盤が床に固定されている座位前屈に比べて腰への負担が少ないです。

4. 背中のストレッチとリリース

腰背部や脊椎の柔軟性も、前屈を深めるために重要です。

キャットカウ(Cat-Cow):四つん這いの姿勢になり、息を吸いながら背中を反らせ(Cowポーズ)、息を吐きながら背中を丸めます(Catポーズ)。この動きを数回繰り返し、背中全体をほぐします。

5. 首と頭のリリース

首の後ろをマッサージしてから前屈すると驚くほど前屈が深まることがあります。

首のストレッチ:首の後ろを左右の手を重ねてゆっくりとマッサージします。   椅子に座るか立ったまま、ゆっくりと頭を左右に傾けて首の筋肉を伸ばします。 頭の後ろで手を組んで、軽く前に倒し首の後ろ側も伸ばします(決して引っ張り過ぎない)。

ふくらはぎの筋膜をほぐす手法をもう一つ紹介します。

ヨガブランケットまたはバスタオルをクルクルと堅く巻いて、できるだけ膝裏近くに挟んで座ります。かなり痛いと感じるかもしれません。手をついて、かかる圧を調整してください。巻いたバスタオルの太さも調整してみてください。痛気持ちいい範囲でやってみてください。バスタオルの位置を移しながら、ふくらはぎ全体をマッサージしていきます。

筋膜の層をつなぐコラーゲンの劣化を防ぐ

筋膜は、薄いティッシュペーパーを何層にも重ねたような状態で、各層には水分を多く含んだコラーゲンがあり、それが潤滑油のような働きをして各層同士が、くっつかずに、スムーズにスライドするようになっています。けれども怪我や長時間の悪い姿勢、運動不足、加齢などが原因でコラーゲンは水分を失い層同士がくっついてしまいます。ですので、水分補給、睡眠と、できるだけ体を動かして筋膜の層を動かすことが大切です。

筋膜が劣化した状態とは、たとえば、スパゲティーをゆでてザルにあげて放置しておくと固まってくっついてしまうような状態です。

ヨガと筋膜リリースを組み合わせることで、柔軟性の向上、痛みの軽減、血行促進、姿勢の改善、さらに内受容感覚(体の内側を感じる)や固有感覚(位置、動き、力、平衡感覚を認識するために必要な感覚)の向上など多くの健康効果を得ることができます。

「筋膜とヨガセラピー」講座
筋膜が凝りや痛みを引き起こすことは最近、一般的にも知られるようになってきましたが、筋膜にはその他にもたくさんの機能があります。体を支える姿勢機能、体を滑らかに動かす運動機能、体の感覚を脳に伝える伝達機能、リンパの流れを促す機能などです。さらに近年では自律神経系とのつながり、ひいてはストレス軽減、安心感や幸福感にさえも影響を及ぼすという研究結果も出てきており、筋膜の知識はセラピーとしてのヨガに欠かせないものとなってきています。講座では、このような筋膜の持つ特性や機能を、わかりやすく説明するとともに、筋膜の心と身体へのセラピュティックな健康効果を最大限に引き出すために、どのようなヨガをどのように実践して行ったらいいのかを学んで行きます。
次回開催予定:2024年11月23日(土)。▶講座詳細はこちらから。

この講座は全米ヨガアライアンスのRYTを取得した方の継続教育4時間としてご利用いただけます。

ヨガメディカル協会主催/共催のヨガ関連のイベント、セミナーのお知らせを随時お届けします。