ヨガセラピーとヨガの違い

ヨガセラピーとヨガの違いは何ですか?とよく、尋ねられることがありますので、ヨガセラピストの立場から説明してみます。

ポーズありきのヨガ

今まで日本やアメリカで流行って来たヨガは「ポーズ」や「柔軟性」ありきで、180度の開脚ができたり、足を耳の横まで上げられたりする人が、すごいですねーと賞賛を浴び、憧れの目で見られがちな「ポーズという型に自分の身体を合わせて行くヨガ」です。インストラクターになる人達も、必然的に元々体が柔らかい人が多いように見受けられます。

統合医療としてのヨガ

でも、この十数年の間に、アメリカでは鍼治療などの東洋医学が注目を浴びると共に、ヨガの健康効果に対する様々な科学的な証拠(エビデンス)が次々と発表され「統合医療(Integrative medicine)としてのヨガ」が大きく注目されるようになりました。

統合医療とは、統合医療に力を入れているアメリカの総合病院Mayo Clinicによると、「最もよく研究された従来の医学と、最もよく研究され証拠に基づいた補完療法を組み合わせて、一人ひとりに適したケアを実現する。」と書かれています。また、院内にいち早くヨガクラスを取り入れたことでも有名なCleaveland Clinicでは、「体の部分を見るのではなく人間全体を治療し癒す。」としています。

ハーバードメディカルスクールの発表では50歳から80歳のアメリカ人の3分の2が、健康や気分を高めるために、マッサージセラピー、ヨガ、瞑想など、少なくとも1つの統合医療を利用しているということです。

このような安全性と有効性について質の高いエビデンスが得られているヨガを提供するために、アメリカにはIAYT(国際ヨガセラピスト協会)という組織があり、多くの医療従事者が在籍し、質の高いヨガセラピストの育成をしています。ですので、ヨガ資格として最もよく知られている全米ヨガアライアンスでは、RYT(Registered Yoga Teacherの略)を取得しても、セラピーという言葉を使用するには、IAYTによる資格(C-IAYT:Certified International Yoga Therapist)、もしくは相応の資格が必要であると規約に定めています。(日本ヨガメディカル協会には、2人のC-IAYTが在籍し、日本で唯一のIAYTのメンバスクールとしてエビデンスに基づいたヨガの講座を提供しています。)

ヨガを体と心に合わせ最適化

ヨガセラピーでは、「柔軟性とポーズ重視」のヨガではなく「ポーズを体に合わせる」ことを最も大切にします。つまり、既成の洋服をお直しして、体に合わせて裾上げしたり、脇詰めをしたりするように、ヨガのポーズを一人一人の体の特徴(手足銅の長さ、関節可動域などの体型の違いだけでなく、体調や病状、精神面なども含みます。)に合わせて行くのが、ヨガセラピーでありヨガセラピストの仕事です。そのため、アメリカではヨガセラピストになるための学びには医学に関することや心理学に関することも含まれます。(ただし、医療従事者でないヨガセラピストが診断や診療まがいのようなことは決してしません。知識として基本を心得ておくということです。)

つまり、ヨガ専門誌の表紙を飾るようなモデル体型の手足の長い美しい若い女性が一般的な関節の可動域を越えてポーズを取ることが目的ではなく、一人一人に合わせて、体と心の健康の維持向上のためにヨガを最適化していくのがヨガセラピーです。ですので、傍目には「ゆるい系ヨガ」や「意識低めのヨガ」に見えるかもしれませんし、一般に日本語では「軽減法」という名前で呼ばれてもいますが、英語では、Modfied Posesと呼ばれています。Modifiedというのは、を「~(よくするために)いくぶん変える,部分修正する」という意味ですので、英語の方が、ヨガセラピーの真髄を正しく表現しています。そこで、私は講座の中では軽減法を「最適化法」と呼ぶようにしています。

ヨガの最適化の例

拙著「様々なポーズの軽減法集中ラーミング講座」のテキストから

たとえば、手首が痛い人のために、四つん這いの際にマットにつく手をグーにしたり、マットの先を丸めて手の腹を載せることによって荷重を和らげたり、ブロックに前腕を乗せて手首への負担をゼロにしたりといった部分修正を加えます。膝に痛みのある方には、ブロックを太ももにはさんで両手をあげたり、軽く膝を曲げる椅子のポーズをすることで、膝のアライメントの修正を図ったりします。脳卒中で、片手に麻痺がある人には、動きにく方の腕を動きやすい方の手で支えながら上げてもらいます。下半身に麻痺がある車いすの方には、ばらけやすい太ももにヨガベルトを巻いてもらって下半身を安定させて上半身を動かしてもらいます。不眠傾向の人には、エビデンスのある副交感神経を優位にする呼吸法を紹介します。

回復目標とシークエンス作り

受講者さんの体の主訴(主な体のお悩み)と、目標をお聞きして、そこに到達するためのポーズのシークエンスを作って、毎日、家でもやっていただけるよう宿題としてお渡しすることもあります。

ヨガセラピストは最適化のプロ

そして、全ての動きは呼吸と共にマインドフルに行うことで、体の外側だけでなく内面にもアプローチしていきます。このように一人一人のできることを探して、ヨガという道具を最適化し、心と体の健康維持と回復のために利用していきます。

ですので、ヨガセラピストの間では知識を深めることを道具箱(Tool Box)の道具(tool)を増やすという言い方をします。現在、認定を目指してくださっている医師でおじい様とお父様が禅僧でいらっしゃったという方が、禅の言葉で「調身調息調心:身をととのえ、呼吸をととのえれば、おのずと心ととのう」と同じですね。とおっしゃっていましたが、まさに、それがヨガセラピーなのです。古来の智慧を科学的な実証の元に行っているのが現代のヨガセラピー、少なくともIAYTや協会が推進しようとしているヨガセラピーです。

これまで日本ヨガメディカル協会認定を修了された多くの方たちから、より多くの道具を増やしたいというご要望をいただいてきましたので、僭越ながらC-IAYTのとして学んできたことをぎゅっと〇ページのテキストにまとめ、6時間講座として2023年3月から開講しております。どんな方にも対応できるヨガの手法について学びを深めたい方の受講をお待ちしております。次回の講座は2023年6月24日(木)の予定です。