「ランガーナ(Langhana)」と「ブラーマナ(Brahmana)」はアーユルヴェーダのトリートメントやヨガのアーサナ(ポーズ)のプラクティスにおいて用いられる2つのエネルギー区分です。
ランガーナ
ランガーナは 「減らす」 「消滅させる」 「取り除く」「浄化する」「断食する」「その原因となったところまで戻す」という意味で、体内システムに過剰に溜まった余分なもの(老廃物やエネルギーなど)を取り除くということです。
アーユルヴェーダの治療においては、クレンジング・セラピーを用いて体重を軽くし、心と感情も軽くします。メンタルでは気持ちがなんとなく落ち着かない時、頭の中の自分の声をオフにできない場合に有効とされています。
呼吸においては「吐く息」、ポーズにおいてはリストラティブ系で リラックスし(動き・ポーズ)、心拍数や新陳代謝を下げ、神経系や心や体を落ち着かせます。
ブラーマナ(ブラフマナ)
「ブラーマナ」は反対に「足す」「栄養を与える」「拡張する」というような意味で、体のエネルギーが不足している場合に、エネルギーやバイタリティーを充電してて体のシステムをバランスの取れた状態に戻します。
やる気がない、気力がないなど体に何らかの不足がある時に有効とされています。
呼吸においては「吸う息」、ポーズにおいては心と体を活性化させるものです。
乳がんリハビリヨガでのランガーナ
ここでバクスター医師の「健康寿命を延ばすヨガ」の中で乳がんリハビリのためのヨガでゲストのシェリルさんが言っていることを振り返ってみます。シェリルさんは、「化学療法にしても放射線治療にしても他の薬物治療にしても、ほとんどの癌の治療は体に熱を加えるものであり、しばしばこの余分な熱が、吐き気、炎症、関節痛、皮膚損傷と云った副作用を引き起こします。治療中、もしくは治療後の最初の6ヶ月に暖める系のヨガ、または体のエネルギー層(サトルボディ)を暖めるような練習はおすすめしません。Langhana(サンスクリット語で「Reduction/減らす」という意味)と呼ばれている練習、または冷やす、リラックスする練習である限り、治療中の人にも安全です。」と述べています。
読者の方から「冷やす」とは、どういうことかとの質問を頂きましたが、わかりやすく言うと、「過剰な熱を取り除く、冷ます」ということです。
乳がんの治療中、治療後はホットヨガや岩盤浴ヨガのように、過剰に暖めた部屋でやるヨガはNGということは、これでおわかり頂けたかと思います。
いい加減のすすめ
ウツの人の場合は、「ブラーマナ」と「ランガーナ」のどちらの練習が有効かという質問も頂きました。これは難問だったので長年アメリカでヨガセラピストを育ててきたジェイミー・シュミッツ博士にお話を聴いたところ、「場合によりけり。」ということでした。ウツの原因は物事に対する考え方、生活環境、環境の変化に対する適応力、日常のストレス、体質、遺伝などさまざまな要因が複雑にからみあっているので、金太郎飴のようなワンパターンな療法では対処できないのです。」ということです。
たとえば、不安感が強いならランガーナを取り入れた練習で心を落ち着かせるのがいいかもしれませんし、一日中、座りっぱなしの生活習慣が原因の場合はブラーマナを取り入れた練習がいいかもしれません。
運動をした後の爽快感は多くの人が経験したことがあることかと思います。私もある時、理由なく朝からドヨヨーンとした沈んだ気分だった時に、あげあげな音楽がかかるエクササイズ系のヨガのクラスに行って、汗を目いっぱいかいた後に、まるで、つき物が落ちたようにスッキリした気分でスタジオを後にしたことがあります。もちろん運動はヨガに限りません。有酸素運動をすることによるウツ状態の解消は科学的にも証明されています。
また、ブラーマナ、ランガーナどちらか一方だけを取り入れるのではなく、まずはランガーナで、体内システムの過剰なものを減らしてから、ブラーマナで気力を上げるというように組み合わせる場合もあるでしょう。反対もあるでしょう。ランガーナとブラーマナの比率を変えることもあるでしょう。
キッズヨガについて
シュミッツ博士にキッズヨガについてもお尋ねしてみました。私の質問は、「こども(特に男の子)はエネルギーにあふれているのに、一日中机に座り続けさせられているということを考えると、キッズヨガにおいては最初にそのエネルギーを発散させるために、思い切り走り回ることが必要では?(私の男の子を二人育てた経験から、ほぼそう確信するのですが。)
でもエネルギーがあり余っている場合は、ブラーマナ・ランガーナ理論によると、リラックス系の練習がいいということになり、矛盾を感じます。ご意見をお願いします。」
シュミッツ博士からの答えは、
「こどもたちはエネルギーがあり余っている過剰な状態なのでしょうか?本当は、その年齢の男の子としては、ちょうど良い状態なのではないでしょうか?
ところが、こどもたちは学校で一日中、先生の指示に従うことを求められ、長時間座っています。これは、子供期には(こどもに限らず80歳くらいまでは、)『ランガーナ過ぎ』です。
たとえば、ひとクラスが20分単位で、合間にダンスや体操や美術やヨガをできたり、疲れた時には休憩したり、外に出て走り回ったりできたら、こどもたちのバランスにはいいことでしょう。しかし、学校という社会システムの便宜上、それがかないません。運動能力が高く、より体を使って学ぶタイプの子は残念ながら罰せられたり、難しい子というレッテルが貼られてしまいます。
最初の質問に戻って、過剰な状態なのではなく本来の子供らしいエネルギーが、発散の場所を得られず、うっ積した状態だとしたら、ランガーナの練習は必要ではありません。まずは、多くの指示を与えずに(こどもたちは一日中学校で指示に従っているので、)自由に体を動かす時間を最初に設けるといいでしょう。
その後は、子供たちは強制されることなく自ら内なるスペースを見つけて落ち着いていくことでしょう。」
内観力と洞察力を養う
性格の個性と同じで体のシステムもひとりひとり個性があるので、自分に合ったバランスを見つけるということが大切です。
ヨガセラピストとしてクライアントに対した場合には、クライアントがよりエネルギーの活性を必要としているのか、それとも沈静を必要としているのかを見分ける洞察力が求められます。ヨガセラピーがグループレッスンという形で行いにくいのは、そこにあります。
村松ホーバン由美子:日本ヨガメディカル協会公認講師&WEB編集責任者
E-RYT500、C-IAYT(国際ヨガセラピスト協会認定セラピスト)、介護予防指導士、米国シニアヨガ指導士、ムーブメントセラピー指導者、日英通訳翻訳。埼玉県在住。
【担当講座】「解剖学② ヨガセラピー✖筋膜」「ヨガ✖ポリヴェーガル理論✖自律神経」「様々なポーズの軽減法」