子供たちが思春期を迎えると、つるつるだった肌にニキビがひとつふたつ、わけもないイライラが始まります。これもホルモンの仕業で、本人たちは何が起こっているのかもわからずに、自分の力ではどうしようもない変化の嵐の中を過ぎていきます。

その何倍も人生を生きているはずなのに、更年期、あらためてホルモンの仕業にしてやられる年代です、と言われても対処が難しいのではないでしょうか。

自律神経が不安定になるため、症状も単独ではなく、人によって様々な症状が組み合わせてあらわれるのも更年期症状の特徴です。症状を有する方の95%以上の方に、疲れやすさ、肩こり、腰痛、手足の痛みなどの症状を併発しているということがわかっています。(武田薬品調べ)

適度な運動を伴った生活改善の一環として、ヨガも薦められています。すでに書店にはたくさんの本が並び、コロナ禍では自宅でヨガを始めてみた方も少なくないのではないでしょうか。

ヨガは体調管理のスパイス

呼吸法、適度な身体活動、そして自分への眼差し、ヨガには更年期を乗り切るための要素がたくさん含まれているという点で、インド発祥のカレーに似ています。無気力になった時は、気分を上げるスパイスとしての運動を、不安定な時はバランスをとるようなポーズやゆったりとした呼吸法を、熱がこもり攻撃的になっているときは、頭寒足熱、クールダウンを促すような逆転のポーズを、というように、自分の状態を知りながらスパイス(インドでは混ぜ合わせたスパイスはマサラと呼ばれています)を調合できるのがヨガの魅力です。どのスパイスが多ければ優れている、というのではなく、今日の自分が美味しく感じられるようなカレーを作っていくつもりで自分に合ったヨガを探していくと良いと思います。

そうは言いながら、ヨガの最大の難しさは、始めることと続けることだとも言われています。

更年期を支えるヨガセラピーとは

ヨガセラピストは何を学べば良いのでしょうか?

それはメリットだけでなく、負の側面をしっかり理解して支えることだと考えます。生活習慣の一つにヨガを薦めます、というだけでなく更年期の女性がヨガをしている間にどんなリスクがあるのかを理解しておくことで、本人が緩やかに続けていけるだけの環境を守っていくことができるかと思います。

具体的には、更年期にエストロゲン、プロゲステロン、テストステロンのレベルが低下し変動することによって次のような症状を抱えた状態でヨガや運動のクラスに参加している可能性があります。関節が痛い、筋膜の緊張、坐骨神経痛、五十肩、仙腸関節、腰痛、手の痛み、足底筋膜炎、片頭痛、めまい、脱水症状、喉の渇き、ほてり、倦怠感、神経過敏、過敏性、突然の怒り、気分の落ち込み、不安、過覚醒、自尊心の喪失。症状はここに挙げただけではありませんが、治療をする立場にはないヨガセラピストにとって、ヨガを薦める以外にもしなくてはいけないことがたくさんあります。

普段のヨガのクラス以上に過敏になっている彼女にはパーソナルスペースを尊重しなくてはならないかもしれません。身体に許可なく触れることはもちろんあってはなりません。コロナですでに行っているスタジオがほとんどですが、ホットフラッシュへの不安には風通しも大切です。身体に痛みを感じている場合は、座布団やブランケットで身体を支える方法をお伝えすることで、決して無理をしながらヨガを行う必要はない、というメッセージも伝えていけることでしょう。

日本の社会ではまだまだ更年期に対する社会の理解がありません。更年期であることを表に出したくない女性もいることでしょう。不特定多数のクラスで更年期の女性が安心してヨガを楽しめるためには、もしかしたらさりげなく普段から、女性の体調の変化についてを話題にしておくことも、良いコミュニティづくりに役立つかもしれません。

更年期に限りませんが、ヨガや太極拳など、補完統合医療や健康増進に薦められるものの多くは、そのプラスの側面ばかりが伝えられる傾向があると感じています。そのこと自体はもちろん悪いことではなく、良さを理解していただき、生活改善に役立てていただくことが本意だと思います。しかし、それを実現していくためにも、こちらのペースで一方的に説得を続けるのではなく、参加される方がどんな方なのか、ということを知り、相手が始めやすい、続けやすい仕掛けを作って差し上げるのも、ヨガセラピストの役割なのではないかと思っています。真面目な方が多く、ヨガもしっかりやらなくては、と向き合う態度にも、セラピストが柔らかく接していく、そのための秘訣がヨガセラピーの中に隠されていると感じています。

文責:岡部 朋子