社会的弱者とは
大学院に入り、社会的弱者に対する「社会モデル」という考え方を学びました。社会的弱者とは社会のなかでその構成員として存在しながら、大多数の他者と較量すると、著しく不利な状況や不利益な状態に置かれる者(個人あるいは集団)を意味します。例えば、障害を持つ人や高齢者、妊娠中の女性などは社会においてハンディキャップ(不便)を抱えます。
個人モデルから社会モデルへの変遷
『個人モデル』
かつては個人モデルといって、不利な状況に置かれる原因は当事者にあるという考えで自助努力が求められました。
『社会モデル』
しかし障がいとは心身の機能障害のみを指すのではなく「健常者を前提とした社会」不平等に課せられる生活上、社会参加上の不利益である、という考えに基づき、社会が健常者を前提とした社会のあり方を見直す必要があるという考え方が近年支持されるようになってきています。ただし、世界的にみてもまだ主流ではありません。
米国では、障害者や高齢の方向けのヨガが日本とは比較にならないほど普及しています。健常者の環境とのギャップを埋める努力をする取り組みが物理的にも、指導者の意識の上でも積極的になされており、これは日本も見習うべき姿勢ではないかと思います。
レジリエンス Vs. 適応
私がこの問題に興味を持ったのは、産後、心身ともに脆弱な状態となる母親に対するある研究を目に留めたことがきっかけでした。研究では母親たちが周囲から「回復力-レジリエンスへの期待」をかけられることに違和感を感じていることが報告されています。母親たちはレジリエンスという言葉よりもむしろ「適応」「対処」という表現を好んだとのことです。日本でも「お母さんなんだから強く優しく!」という母性神話がいまだに残っています。十分頑張っているのに、自己責任で回復を目指しましょう、と言われるのは辛い、ということでしょうか。
合理的配慮
求められているのは、社会的弱者が健常者と同じことを楽しむために行う適応の努力を最小化する支援だと思います。
このような支援は「合理的配慮」と呼ばれます。ご興味のある方は、京都大学 DRC:Disability Resource Center(学生総合支援機構 障害学生支援部門)のHPをご覧になってみてください。
私たちは気づかないうちに、元気な健常者を中心に社会を作っていることに気づかされました。
非常時における配慮
本コラムの掲載の準備を行なっている矢先に、令和6年能登半島地震が発生いたしました。社会が生活モデルの推進を進めていても、非常時、すなわち今回のような震災の際、障害を抱えた方は健常者に比べ、不利な状況に置かれます。障害があることによって、さらに大変な状況にならないような配慮について厚生労働省からも情報提供が行われていますが必要な人に届くには見つけにくい情報だと感じます。今回、災害に遭われた方もそうでない方も、ぜひ自分にもできる配慮に対する知識として一度ご覧いただくことをお勧めいたします。「避難所等における障害児者への配慮事項等について(令和6年能登半島地震について)」
石川県ではいち早く、配慮が必要な方々に対する二次避難所の立ち上げが進められているとのことです。ただしこちらでも、生活の中での困難は長期化することが予想されます。今回のコラムが、健常な方だけでなく、困難を抱えた人の状況に配慮が必要であることを知っていただくきっかけになりましたら幸いです。
このたびの震災で被災されたすべての方々に1日も早く日常が戻りますことをお祈り申し上げます。
《参考文献》