岡部 朋子:(社)日本ヨガメディカル協会理事

今年も世界のヨガセラピストが一堂に会するうヨガセラピー・シンポジウム(SYTAR: Syposium on Yoga Therapy and Reserach)がカリフォルニアのニューポートビーチで行われました。簡単なご報告となります。

ヨガセラピーの現場に立つと「それが本当にヨガなのですか?」と言われることが少なくありません。

でも、目の前にいる人の体が楽になり、呼吸が落ち着いて、穏やかな表情になってほしいという気持ちを持って行えばそれはヨガを活用したことになると信じ、ヨガであると伝えてきました。

本日の Nischala Joy Devi先生の基調講演でその気持ちが確信に変わりました。(Nischala先生は18年間インドの僧院で尼僧として過ごした後、心臓疾患や癌患者のためのヨガ” Yoga of the Heart”を提唱しています。著書に” The Secret Power of Yoga”他)

シンプルに心を込めて良いことを行いなさい

Nischala先生がはるか昔、病院でヨガを教え始めた時、ある患者さんが打ち明けた不安に耳を傾けていたそうです。つかの間、放送で上司に呼び出され、渋々と上司のところに行ったそうです。

上司は「どこで何していたんだ」と問い詰め「患者さんを慰めていたんですよ」と答えたら「それは君の仕事じゃない!! 」「人を慰めることは君の仕事ではない !」と威圧されたそうです。

その時にNischala先生が心の中で叫んだこと。「じゃあ、慰めることは一体この病院では誰の仕事なんだ!」

4日間のシンポジウム中に自由に参加できる毎朝のモーニング・プラクティスで気付いたのですが、誰一人として柔軟でなくてはできないようなポーズをとっている人はいません。セラピーにおいては、それは何の意味もなさないことを知っているからです。

皆、誰かに祈りを捧げるように佇んでクラスが始まるのを待っていますが、不思議と宗教のような感じはせず、その場の雰囲気がまるで神社のように神聖な空気に包まれているのです。

講演で先生が繰り返し伝えられたのは、シンプルで良いということ、シンプルに心を込めて良いことを行いなさい、ということでした。

■ヨガセラピストにできること

私たちヨガセラピストは病気を治すことはできません。骨を折ったら、ヨガセラピストのところではなく、救急病院を目指すべきなのです。でも別な言い方、誤解を恐れずに言えば、ヨガセラピストにとっては病気そのものは全く関係ないのです。

その人が病気であろうが、人として辛く感じていること、苦しんでいることがあり、そこに手を差し伸べることは100%はできないかもしれないけれど、誰か一人でもその人の辛さをわかってあげたいと思う人がいるかいないかで、世界は少し変わります。

私自身も、ヨガセラピーにおいてたくさんの理論を学んだところで、それが生身の家族の前では全く非力であると感じることがあります。

生きていることに気づくことは、いつかは死が訪れることを覚悟することでもあります。失われていく時間の価値を知ることは私たち人間にとって恐怖であり、そこに平等さも不平等さも感じます。

ヨガセラピーを通じ人と接することは、どうやっても不安や苦しみをゼロにすることできない限界を理解した上で、いかに穏やかに過ごしていくための支えを提供していけるか、という挑戦だと思っています。

私たちヨガセラピストはヨガの本質、穏やかな呼吸とともありのままのに自分を大切にし、自分のいる世界と調和することを伝え、ともに時間を共有することを通じ、そこにたとえヨガのポーズらしいポーズがないとしても、その人を穏やかにする役割を担っていきたいものだと思います。

ヨガセラピーが担う役割は人生という山登りのシェルパーのようなもの

このカンファレンスは、ヨガのテクニックを教えてくれる会議ではありません。

毎年足を運ぶ理由は、世界中のヨガセラピストたちがここに集まり、ヨガセラピーが間違った方向に行かないように、そして間違った解釈をされないようにするにはどうしたら良いかを確認し合い、その先の方向性を理解し合う場だからだと思っています。

「ヨガ教室に足を運んだ後はなんか気分がいい」

その気分の良さのメカニズムを臨床研究で客観的に証明することはとても大変です。でも、やはりその気分の良さがヨガセラピーには大切であって、現場ではそれを担うのです。

QOL(生活の質)が上がったとか、血圧が下がったとかそういう問題はもちろん大切ですが、テクニックで血圧を下げ、肝心なことが置き去りにされることがないようにしなくてはなりません。

どんな人の人生も死ぬまで続いていきます。そこにヨガセラピーが、救命ボートのような役割をして溺れそうになっている人の役に立てたらと思います。

あるいは、山登りのシェルパのように、一緒に歩みながら可愛い野草に目を留めましょう。

ありのままの自分、目の前の人を大切にすること


ソマティックセラピーのご専門のエレノア クリスウェル さんと

使命感が先走りしないために一番大切なことは、ヨガにおいても脈々と伝え注がれてきたマインドフルネスを実践する心がけだと思います。つまり、今この時と、ありのままの自分、そして目の前の人を大切にすることです。

そのようなことを、毎年しっかりと私たちヨガセラピストの心に根付かせてくれる、IAYTの存在に心から感謝と敬意を申し上げます。毎年一緒に学びを深めてくれる仲間たちとともに、ヨガメディカル協会も日本においてそのような役割を担っていくことを目指してまいります。