脳梗塞後のリハビリとしてのヨガ
私のメディカルヨガのクラスに通われて2年目になる73才の雑貨屋さんを営むMさんは、最初にお会いした時は4年前の脳梗塞が原因で左手の動きが少し不自由で、左肩の可動域も狭く(腕を頭上に上げられない状態)、バランス感覚も悪い状態でした。12人のグループでの週一でのレッスンではありますが、Mさんの体にヨガを合わせるための工夫をしてきました。
たとえば腕を頭上に上げる時は、上がりにくい方の手の下に、もう一方の手を重ねて前から上げる。ヨガベルトを輪にして手にひっかけて両腕を上げる。左の腕と右足を同時に動かすような非対称のポーズや、椅子を補助的に使ったポーズでバランス感覚を養う、などなど。2年経った今、目に見えて腕の可動域やバランス感覚が改善しています。
クラス最高齢のおしゃれな84才のOさんは、十数年前に開胸での大きな心臓手術をされたそうです。毎週月曜日にヨガのレッスンを受けに来られ、火曜日に病院で血糖値を測るのだそうですが、お医者様に「ヨガを始めてから血糖値が下がっていますね。このままヨガを続けてくださいと言われました。」と満面の笑顔で教えてくださいみました。(血糖値が上がると動脈硬化が進み、心筋梗塞や脳梗塞リスクが高まるということが知られています。)
脳卒中とヨガに関する研究
日付: 2018年5月
南オーストラリア大学による研究の要約
オーストラリアでは脳卒中の治療にかかるコストや労働生産性の低下により、年間50億ドルのコストがかかっています。2017年には56,000人のオーストラリア人が脳卒中に罹患しており、それは9分に1人の割合で脳卒中を発症している計算になります。
モナシュ大学、南オーストラリア大学、メルボルン大学の研究者らが、Future Neurology誌に発表した論文によると、ヨガや太極拳などのマインドフルネスに基づく介入(Mind–body interventions 以下MBI)が、脳卒中の危険因子である高血圧、脂肪酸、血糖値の低下による脳卒中リスクの低下に影響を与えることがわかりました。
研究者によると、この2つの東洋のプラクティスは、脳卒中のリスクを軽減するだけでなく、脳卒中患者のサポートにも役立つ可能性があるということです。
南オーストラリア大学の人間運動学講師であるマーテン・イミンク博士は以下のように述べています。
「体を動かすことは、脳卒中の再発防止に重要な役割を果たしますが、脳卒中の生存者の多くは運動能力が限られており、そこで、ヨガや太極拳がとても役に立ちます。ヨガや太極拳は、穏やかな動きを基本としたマインドフルネスに基づく介入であり、脳卒中後遺症で失われがちな集中力を高めると同時に活動的になることができます」
研究者たちは、1985年から2017年の間に発表された26の研究を分析し、ヨガと太極拳が、血圧、コレステロール、糖尿病、心房細動、喫煙、飲酒、肥満、不安、うつ病など、脳卒中の主要な危険因子をどのように緩和するかを調べました。
南オーストラリア大学の健康研究部長であるスーザン・ヒリアー教授は、MBIが脳卒中の最大の危険因子である高血圧を効果的に軽減する方法であることを示すエビデンスが増えてきていると言います。
「いくつかのエビデンスは、ヨガや太極拳などのMBIは、深い呼吸をすることで、自律神経のバランスを整えて安定させ、心拍数を下げることで血圧を調整することを示唆しています。」とヒリアー教授は言っています。
「脳卒中の生存者は、10年以内に43%、5年以内に32%、1年以内に16%の確率で再発する可能性があるため、主要な危険因子を減らすための介入方法を見つけることが重要です」と述べています。
今回の研究では、血圧の低下以外にも、組織への血液と酸素の供給を増やし、インスリンの分泌を助け、抗酸化物質を増やすことで、MBIが糖尿病患者の健康増進に役立つことが示されました。
DOI: 10.3109/09638288.2011.573058
(社)日本ヨガメディカル協会では、リハビリや補完医療としてのヨガの普及に努めています。
文責&翻訳:村松ホーバン由美子
Certified-International Association of Yoga Therapists