クリスティン・ウェーバーさん(MA, C-IAYT, ERYT500)は、30年近くヨガとホリスティック・ヒーリングを研究し「マインドフルでスローな動き」の神経科学的効果に関する世界的権威です。2019年彼女は米国の国会議事堂に招待され議会のスタッフや議員を前に、ヘルスケアシステムにおけるヨガセラピーの潜在的な利点について講演しました。

クリスティンさんは、RYTヨガ指導者トレーニングだけでなく、地域社会の健康基盤を強化するという使命のもと、行動療法の専門家のためのトレーニングやホリスティックなマインドボディ・トレーニングや臨床サービスを提供しています。
www.subtleyoga.com

私は今まで何度か、私が反「ヴィンヤサヨガ*」で、エクササイズ的なヨガと伝統的なスローなヨガを対立させようとしている、と非難されたことがあります。しかし、それは決して私の本意ではありません。

*「ヴィンヤサヨガ」呼吸に合わせてポーズからポーズへと次々と連続して動いて行くヨガ

*「スローヨガ」この文章内でのスローヨガの定義はマインドフルネスにゆっくりと動くヨガやヨガブロックやボルスターなどを使って体をサポートしながらリラクゼーションと癒しに焦点を当てたリストラティブヨガなどを含みます。

でも、あなたが「初心者向け」「簡単すぎる」「本物ではない」「時間の無駄な」ヨガの先生だと侮蔑的な含みを持って言われたことがあるけれども、人々が一度でもスローなヨガをやってみれば、素晴らしい新たな発見してもらえるかもしれないのに、と思っているのであれば、自分のやっているヨガをメインストリームのヨガとうまく差別化していかなければなりません。

今まで、ゆっくりした、マインドフルなヨガとスピード感のあるワークアウト型ヨガとの違いに関する研究はあまり多くなかったので、以下のリサーチを読んだ時、私は非常に興奮しました。

スローヨガ対ヴィンヤサヨガの認知効果の研究

研究者は、運動不足だった乳がん患者を対象に、リストラティブヨガとヴィニヤサヨガの認知機能に対する効果を比較しました。対象者を2つのグループに分け1つのグループには週に3回、12週間、1時間ずつリストラティブヨガを実践してもらい、もう1つのグループには同じ期間で同じ時間、ヴィニヤサヨガ(研究者は「激しいヨガ」と呼びました)を実践してもらいました。両グループはさらに12週間、自主練することになっていました。

リストラティブヨガを実践したグループは、全体的な認知機能に大きな改善が見られました。また、「流動性認知機能」と呼ばれる、新しい問題を解決し、情報を処理・統合する能力についても大きな改善が見られました。

一方、ヴィンヤサヨガ(激しいヨガ)を実践したグループでは、全体的な認知または流動的認知機能の有意な改善を示しませんでしたが、「結晶化知能」(学び、経験を通じて蓄積する知識やスキル)のスコアが向上しました。

スローヨガと休息の効用

では、この研究について少し解説してみます。週に3時間のリストラティブ・ヨガをすることで、全体的な認知力と問題解決能力が向上したことは理にかなっています。これは、脳と身体が回復のために切実に必要としている、週に3時間の意図的な休息が与えられたからだと思います。超高速社会に生きる私たちのほとんどは、毎週これだけの本格的な休息を取ることはできません。(残念なことに、ネットフリックスを見たり、ワインを飲むことは休息としてはカウントされません)。ゆっくり、マインドフルにストレッチをすることで、炎症を抑えるなどの効果があることを示唆する研究もあります。

乳がんと診断されることは、たとえ寛解期に入ったとしても、大きなストレスです。毎週、自分自身を休ませ、いたわる時間を持つことは、強いストレスによる健康への影響を緩和し、認知機能を改善する重要な要素になるかもしれません。

しかし、なぜヴィンヤサのグループには同じ効果が見られなかったのでしょうか?

ヴィンヤサヨガの利点と注意点

左から2番目Kristineさん

活発なヴィニヤサクラスはフィットネスクラスと類似している傾向があります。おそらく両者は循環器系の健康、筋肉のトーン、強度、および固有感覚*の向上において同様の恩恵をもたらすでしょう 。しかし、認知機能に影響を与えうる、精神、神経内分泌-免疫系、固有の筋肉の緊張などに対しては、スローヨガと同程度の恩恵があるとは限りません。

*固有感覚:自分の身体の各部位の位置や動きを正確に知覚するための感覚。

スローヨガと癒し

スローヨガまたはプロップス(ヨガの練習中に使われるヨガブロックやボルスター、ストラップなどの道具類のこと)を使用したマインドフルなヨガには、多くの利点があります。

リストラティブヨガ(おそらく他のスローなマインドフルヨガも)は、現代社会のハイスピードなモードから離れて、極めて重要な精神的および身体的な休息にアクセスする機会を提供します。休息は欠くことのできないヒーリング要素の1つです。にもかかわらず、休息は私たちの文化では、あまり価値を置かれていません。ですので週に3回、1時間の深い休息をすることは、認知的な側面を超えたかけがえのない恩恵をもたらすことでしょう。そして、研究に参加することで、「いわゆる『本物のヨガ』(皮肉です。)」をしていないことに罪悪感を感じる必要もないのです。

もう1つの重要なポイントは、リストラティブのクラスでは、内受容感覚(心臓の鼓動、呼吸、胃の満腹感、体温、血圧など、身体内部のさまざまな感覚)を感じるスキルを身に着けることができることです。これには、自分の体がどのように感じているかに気づくこと、呼吸に意識を向け、より心地よい姿勢に調整し、新しい感覚が寄せたり引いたりするのに心の目を向けること、やさしく心地よいストレッチの感覚を感じることなどが含まれ、このような感覚もまた認知機能をサポートするかもしれません。

指示通りに速い呼吸とともに体を早く動かし、固有感覚(プロプリオセプション)とバランスの両方を維持しようとしながら、同時に内受容感覚への気づきを養っていくのは至難の業です。なぜなら、これらの行動は、生存にとってはより不可欠な機能であるため、内部の感覚やそれがもたらす内なる知識よりも重要だからです。生存は常に生物学的に最優先されます。

異なるヨガスタイル、異なる利点

激しいヨガには多くの利点があります。50年以上にわたる確かな研究が、有酸素運動の効果を実証しており、それに異論を唱えるつもりはありません。この研究はとても重要ではありますが、ある意味、よりスローで、身体の内面を大切にするヨガを教える人々にとっては諸刃の剣となります。つまり、一方では一部の人々に運動をするよう納得させることができるので素晴らしいことです。その一方で、リストラティブヨガやスローなヨガは有酸素運動ではなないので、効果がないと考える人も多いからです。このような人たちは、ジェントルよが、チェアヨガ、リストラティブヨガは、「いわゆる『本物のヨガ』」ができない人のためのものであると考えています。そしてヨガの恩恵はカロリー燃焼があって初めて得られるものだと信じています。

しかし、先に紹介した認知機能の研究は、スローなヨガやリストラティブヨガには異なる利点があること(より良いというわけではなく、異なる利点があるということ)を示唆しています。このようなことに世間はまだ関心を持ち始めたばかりであり、さらに多くの啓蒙が必要です。そんなことを考えていると、私はボルスターに身を預けちょっと呼吸をしたい気分になるのです。

翻訳:Yumiko MH.