産後のメンタルヘルス

産後のお母さんのメンタルヘルスについて、最近では産後うつ病に特化した薬の開発も進んでいるようです。しかし、一方でお母さんたちは薬物療法より安心した環境で話を聞いてもらうことを好んだり、メンタルヘルスの問題について聞かれる質問には正直に答えなかったり(約5人に1人が!)することがわかっています。

私が気になったのは産後6ヶ月、少なくとも1週間に一回、子供を預けて自分の時間を持てたお母さんはそうでないお母さんに比べ、産後うつになる確率が低い可能性があるという研究でした。

子育て支援政策と心理的ハードル

日本でも政府は子育て支援の一環として、リフレッシュや自分の時間の確保のために一時預かり制度が存在することの明確化に取り組んでいます。しかしそれまではリフレッシュを目的とした一時預かり制度は、お母さんの心理的抵抗感(子供を預けてリフレッシュしたら、良い母親と思われないのではないか、子供が可哀想なのではないか)というハードルによって利用が進んできませんでした。

しかし実際、産後のニーズとして最も高いのは「育児から解放されて自分の時間が欲しい」というものでした。出産の疲労から回復する間もなく24時間体制の育児が開始される産後の母親の心身は非常に疲れているはずなので、想像に難くありません。かくいう私も第二子を出産後に使わせていただいた託児つきのヨガスタジオにどれだけ救われたかわかりません。もちろん自由時間の活用はヨガに限ったことではなく、美容院に行く、友人に会って大人の話をする、ゆっくりお風呂に入るなど、お母さんの数だけあることでしょう。

私自身が、託児付きの図書館でマタニティヨガのクラスを担当させていただいた理由が実はここにあります。妊娠中から図書館に足を運び、託児があることを知ってもらう。産後、自由な時間が欲しくなることもゆったりとした気分の中でお伝えする。本を読む目的でなくても、顔見知りの司書さんがいる、馴染みのある場所で、ちょっと一息つく大切さを「知ってもらい」「使ってもらう」ための仕掛け作りとして提案書を書かせていただきました。

エビデンスは「使ってもらう」ことで完成する

私が在籍する京都大学医学研究科の健康情報学教室では、エビデンスは「作る」「伝える」だけでは不十分で「使ってもらう」ことで完成する、ということがしばしば話題にあがります。ヨガさえやっていれば100%健康になれる!ということではなく、安全に無理なく行えるぐらい易しいヨガを手段として、健康にまつわるエビデンスを活かせる社会は作れるのではないか、という気持ちが私の原動力になっています。

《参考文献》

Forder, P. M.et al. (2020). Honesty and comfort levels in mothers when screened for perinatal depression and anxiety. Women and Birth : Journal of the Australian College of Midwives, 33(2), e142-e150.

Woolhouse, Hannah, et al. “Frequency of “time for self” is a significant predictor of postnatal depressive symptoms: results from a prospective pregnancy cohort study.” Birth 43.1 (2016): 58-67.