

―『国際ヨガセラピー学会誌』の最新研究から―
ヨガというと、「マットの上でポーズをとる運動」というイメージを持つ人が多いかもしれません。でも実は、ヨガは病院の中でも行われており、心と体の回復を助けるサポートとして役立っています。
この記事は、国際ヨガセラピー学会誌(International Journal of Yoga Therapy, 2024年号)に掲載された
「入院中の痛み・不安・うつ・ストレスを和らげるための補助療法としてのヨガ」という研究の要約です。
入院とヨガ
研究チームは、「入院」と「ヨガ」という言葉をキーワードに、世界中の研究を調べるシステマティック・レビュー(系統的レビュー)という方法を使いました。
システマティック・レビューとは、すでに発表されている多くの研究を一つひとつ精査し、あらかじめ決められた基準(研究の質や対象、実施環境など)を満たしたものだけを集めて、全体の傾向をまとめる方法です。単独の実験や症例研究では見えにくい「全体像」や「共通の傾向」を明らかにできるのが、この方法の特徴です。
また、複数の研究データをまとめて分析するため、結果の信頼性が高まります。そのため、システマティック・レビューは「最も信頼性の高い科学的根拠(エビデンス)の形のひとつ」とされています。
ヨガセラピストにとっても、世界中の複数の研究で一貫して良い結果が出ていれば、「ヨガには入院中の人にも安全に行うことができ効果がある」と自信をもって伝えられるようになります。
研究チームは615本の論文を見つけ、その中から条件を満たした13本を詳しく分析しました。
対象になった人は成人および小児患者で、入院中の症状管理のためにヨガが用いられました。対象となった病状は、がん、心疾患、外傷性脳損傷、ハイリスク妊娠、慢性筋骨格系疼痛など多岐にわたっていました。これは、ヨガが複雑な医療環境でも幅広く適用可能であることを示しています。痛みや機能制限、抑うつ、心理的ストレスといった症状は、多くの入院患者に共通して見られるためです。
どんなヨガが行われたか
ヨガといっても、病院で行われるのはとてもやさしい内容です。立つことが難しい人でもできるように、ベッドの上や椅子に座ったままで行えるよう工夫されています。
内容は次のようなものです:
- 軽いストレッチや手足の動き
- ゆっくりとした呼吸法
- マインドフルネスや瞑想(イメージを使うことも)
- ボディスキャン(体の感覚を感じ取る練習)
- ヨガニードラ(深いリラクゼーション)
これらは、体に無理をさせるのではなく、「呼吸と心を整える」ための穏やかなヨガです。
実際の例
ハイリスク妊婦(安静入院中):
- 5分の呼吸法
- 胎児の健康をイメージするガイド付き瞑想
- 15分のベッド上ヨガ(首回し、腕上げ、座位ツイスト、腰の傾斜運動、腰背部ストレッチ、足首ポンプ)
- 最後にヨガニードラ(深いリラクゼーション)
婦人科手術前後の患者:
- 5分の瞑想
- 呼吸と連動した穏やかな動き5分
- 下腹部に負担をかけないよう、おへそ付近に手を置いて呼吸する練習5分。
結果:ヨガは安全で、心にも体にも良い影響を与える
研究を通して、どの病気でも「ヨガは安全に行える」ことがわかりました。そして多くの人が、
- 痛みがやわらいだ
- 気分が落ち着いた
- ストレスが減った
- よく眠れるようになった
- 前向きな気持ちになった
と感じていました。例えば、がん治療中の患者では、ヨガを行った群の方がストレスレベルが有意に低く、また、ハイリスク妊婦では週2回30分のヨガにより不安が減り、前向きな体験として受け止められていました。これは、短時間でも患者に適応させたヨガが有効である可能性を示す重要な結果です。
医療におけるヨガとは
このレビューは、医療現場でヨガを統合的ケアの一部として導入する意義を示しています。医療現場におけるヨガの目的は「正しいアライメント」ではなく、神経系の鎮静・リラクゼーション・自己への安心感の回復です。ポーズの軽減・適応や除外、呼吸とリラクゼーションへの焦点化、医療者との連携、安全確認は不可欠です。
ヨガセラピストは呼吸への気づき、身体への気づき、安心して休息することサポートします。これは「今この瞬間への気づき」「非執着」「慈悲」といったヨガ哲学の根本と重なり、ケアや癒しの価値観とも深く共鳴します。
退院後にも続くセルフケアへ
さらに多くの患者さんが、「退院後もヨガを続けたい」と答えていました。病院によっては、自宅でできるヨガ動画やプリントを渡すところもあります。ヨガは、入院中のケアだけでなく、退院後の心と体の回復にもつながる「橋渡し」となります。