Margaret Chesney PhD. (Professor of Medicine at the UCSF Osher Center for Integrative Medicine)

マーガレット・チェズニー教授による基調講演まとめ

2019年6月にカリフォルニアで行われたヨガセラピーのシンポジウムでの基調講演です。シンポジウムの様子はアメリカの三大ネットワークのひとつであるABCニュースでも取り上げられました。

鎮痛剤「オピオイド危機」

アメリカは、糖尿病、ドラッグによる死、薬の乱用が世界No.1の国であるという問題意識を元に、最初に日本の平均寿命と、医療費の年間コストが米国のそれと比較されました。

平均寿命 医療費年間コスト
日本 84歳   4,747ドル
米国 78.25歳   10,224ドル

詳しい根拠まではわかりませんが、毎年10,224ドル x アメリカの総人口のお金が動いていることになります。アメリカのTOP6-8位のカンパニーは全てヘルスケア関連が占めていることが言われ、誰がお金を得ているのか!→それはヘルスケア関連、特に製薬会社ということです。

病気中心の考え方から患者中心の考え方へ

アメリカを中心に始まっている危機意識は、 病気中心の考え方 (Disease Driven approach) は非効率で、対処療法で、episodic 人間性を書いたものになりがちであり、 それに対し、統合医療は患者中心、ライフスタイル重視のアプローチになっていく、という流れを強調していました。

これからの社会にはライフスタイル重視のアプローチとそれを支えるヘルスケアプロフェッショナル が必要となり それこそがヨガセラピストの役割である、と結論づけました。

しかしこの概念にとってとても大切になってくるのは、ヨガセラピーだけでなく社会的支援を含めたソーシャルデザインが不可欠である、ということです。

統合医療の概念の歴史をおさらい

全人的療法(Holistic Therapy)

代替療法(Alternative Therapy)

補完代替医療(Complimentary and Alternative Medicine) 1998年に NCCAM が設立

補完統合医療(Complimentary and Integrative Medicine) 2004年 NCCIH が設立

現在では、統合医療と健康 (Integrative Medicine & Health) そして、全人的健康(Whole person health) の方向に向かっています。

医師へのインタビューによると、とある健康食品を信じる割合が68% ぐらいあるのに対し、 CAM (Complementary and Alternative Medicine/代替医療)は信じるか?56% という答えに対し、Integrative Medicine (統合医療) はどうか?80% つまり、名前が変わっただけで印象も変わるという結果が出ている。

学際ネットワークの設立

アメリカは、統合医療と健康という流れが固まるや否や 統合医療と健康に関する学術的コンソーシアム(共同事業体)を発足。

設立時のメンバーは

UCサンフランシスコ大学
スタンフォード大学
アリゾナ州立大学
マサチューセッツ工科大学
ハーバード大学
メリーランド大学
Duke大学

これが、今や76メンバーへ急増し、カナダにもその影響は広がっています。

ヨガの普及率は上昇を続け、今では、瞑想やカイロプラクティックよりアメリカの大人に受け入れられているという結果も出ています。

鎮痛剤乱用という問題

アメリカ人が統合医療を用いる一番の目的は慢性疼痛です。アメリカでは5千万人が慢性痛を抱えており、彼らが仕事に支障をきたすことによる、経済損失効果は年間6350億ドルとも言われています。 オビオイドと呼ばれる鎮痛剤の乱用も深刻な問題です。それに伴い、統合医療を導入する病院数も急増しています。
その85%が患者からの要求によるものだということです。

Positive Path (ポジティブな道)-ストレス解消のための3つのシンプルな方法

(1) Breath Deeply
(2) Mindful Meditation
(3) Taichi or Yoga

健康保険会社からもこんなポスターが出ているほどです。

薬を使わない(Non Pharmacological)アプローチ

Joint Commissionと呼ばれる医療評価機関があります。世界各国の医療組織に対して認定(accresitation)、認証(certification)、助言や研修を行い、患者に対するケアの安全性と質を不断に向上させることが目的として活動しています。

2018年、この団体にマーガレットたちのグループも働きかけをし(具体的には、1000通以上の要求e-mailを送った) ついに痛みのケアに薬を使わない、リラクセーションなどを取り入れたアプローチも入れていくよう協議が始まっています。

(参考記事はこちら)

https://www.jointcommission.org/new_joint_commission_advisory_on_non-pharmacologic_and_non-opioid_solutions_for_pain_management/
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4566474/

TURN THE TIDE/潮目を変えよ

公衆衛生局長官(Surgeon General)である Vivek Murthy MD (https://www.vivekmurthy.com) も 医師向けポケットガイド(Physician Pocket Guide)において潮目を変えよ、との問いかけをしています。それは「Moving beyond Medication」(薬での治療を越えて行く)というプロジェクトにつながりました。

「Moving beyond Medication」については下記から取り組みの概要がダウンロードできます。

http://www.ihpc.org/wp-content/uploads/MovingBeyondMedications.pdf

痛みには、マルチプル・ディシプリナリー・アプローチが適している

  • Multiple disciplinary approach : 旧来の領域を越えた多くの学問領域から問題を再定義しようという試み

その中で採用されるためには

(1) ヨガの介入方法は明確に記さなくてはならない
(2) マニュアルの整備
(3) 実施状況の品質保持
(4) 実施方法の多様性(ズームなどオンラインの活用)

ヨガは比較的副作用が少なく、マインドフルネス、呼吸、ポーズなどでメカニズムが説明しやすい。

一般社団法人日本ヨガメディカル協会代表理事 岡部朋子